「第5波の1週間分の患者が1日に、空床なし」沖縄北部、クラスター相次ぎ“負の連鎖”
怪我や病気であっても、入院できない。入院するためには、誰かを無理やり退院させるしかないーー。 このように発信するのは沖縄県立北部病院でコロナ治療に当たる永田恵蔵氏だ。6月30日にはクルーズ船の寄港が再開するなど、観光産業も盛り上がりを見せる今、沖縄北部の医療はどのような状況にあるのか(2022年6月29日にオンラインでインタビュー)。
毎週コロナ感染妊婦の出産も
ーー現在の沖縄県立北部病院ならびに沖縄北部の医療状況を教えてください。 当院の稼働病床は257床ありますが、空床はありません。コロナ病床(35床)もコロナ以外の病床(222床)も埋まっている状態です。 沖縄北部には急性期の患者を受け入れる医療機関が当院を含め2つありますが、6月に入ってからは、どちらにも20人後半から30人ほどのコロナ患者が入院している状態です。内訳としては介護施設や家庭内で感染した地域の方々が多くなっていますが、一部は院内感染による感染者も断続的に確認されています。 コロナ患者の内訳は、高齢者がもちろん多くなっているものの、妊婦さんや透析を必要とする患者も少なくありません。6月は毎週のようにコロナに感染した妊婦さんの出産がありましたし、コロナに感染した小児が熱性痙攣で搬送されるケースもありました。以前、取材していただいた1月頃と比べると、より複雑な背景を持った患者が増えている印象です。複雑な背景を持つ患者が増えることで、現場への医療負荷も高くなっています。 6月26日時点で、沖縄北部の重点医療機関における病床占有率はコロナ病床が92.5%、コロナ以外の病床が98.4%という状態です。 ――2021年夏の第5波と現在の感染拡大の違いはありますか。 現在、沖縄北部においては1日に第5波の1週間分の感染者数が確認されています。第5波においては重点医療機関から全てのコロナ患者に初回聞き取り時点からアプローチすることができ、重症化リスクのある患者を早期にピックアップすることができていました。しかし、現在はあまりに感染者数が多く施設内感染への診療応援などの業務負荷が増えたこともあり、ゴールデンウィーク以降は全ての患者にアプローチすることはできていません。 第5波では社会活動に制限があり、救急受診数は現在の2分の1から3分の2程度と少なく、診療制限も何とか可能であったため入院患者を最大64人受け入れることができました。しかし、現在は他疾患での救急受診者も多く、予定されている手術を実施するなど診療制限を行っていないため、第5波よりも厳しい状況です。 そのような中でも保健所を含む地域医療機関のコロナに対する経験値が上がったことで、保健所やクリニックが丁寧な聞き取りを行い、一定程度のトリアージ機能を果たしています。これらの聞き取りでハイリスクであることが分かった患者や妊婦や精神疾患、透析が必要な患者など特殊な事例については重点医療機関へ直接紹介いただいています。 ーーコロナ以外の病床が逼迫しているのはなぜでしょうか。 やはり社会活動が活発になる中で、外傷が増加したり、飲酒の機会が増えることでアルコールに関する疾患を発症する方が増加したり、過度な飲酒により救急搬送される患者もいます。気温の上昇に伴い体調を崩す高齢者も増えています。 これだけコロナ以外の病床が埋まってしまうと、病床制限もできません。病床制限をしないということは、コロナ患者を受け入れるベッドがないだけでなく、コロナ患者を受け入れるための人員もこれ以上割くことができないことを意味します。最近はコロナ病棟のスタッフのみでコロナ患者に対応しているため、現場スタッフの疲労も限界に達しつつあります。 1月や2月頃はまだコロナ以外の病床制限をする余裕があったので、コロナ患者の急増にも対応できました。しかし、現在はそれもできません。患者を受け入れるベッドがどこにもない状態です。