コロナ禍で苦境の青山商事 SNSフォロワー数8倍の秘策10円シャツ
仕事服のカジュアル化や、新型コロナウイルス感染症拡大によるテレワーク推進など、生活様式の変化が紳士服市場を直撃している。紳士服チェーンの「洋服の青山」を展開する青山商事の2021年3月期上期の売上高は610億6500万円で、前期比59.9%と苦境に立たされている。ビジネスウエア事業の再構築を目指し、ビジネスカジュアル商品の構成比率の向上を狙う。マーケティング策としてSNSの活用を見直し、1年間でフォロワーを8倍に増やした。 【関連画像】10円キャンペーンの告知ツイートは2回で2万件超リツイートされ、3万人のフォロワー獲得につながった 「これまで5年を目途に進めていた改革を、1~2年で進めなければならない状況になっている」 青山商事リブランディング推進室の平松葉月副室長はこう危機感をにじませる。青山商事の主力商品である紳士服市場は、仕事服のカジュアル化などによってなだらかな減少傾向にあった。状況が急転したのが新型コロナウイルス感染症拡大だ。大手企業を中心にテレワークが推進され、需要減少が加速した。2020年は密を避けるために、入学式や結婚式などが相次ぎ延期。イベント需要も大幅に下落した。青山商事の業績にはその影響が如実に表れている。 コロナ禍前から社長直下の組織としてリブランディング推進室を設置し、平松氏を外部から採用。「スーツの青山」から「ビジネスウエアの青山」へと転身を図るための準備を進めてきた。これまでも青山商事はビジネスカジュアルにも適した商品をそろえていたが、積極的に打ち出してこなかった。そうした商品にスポットライトを当て、スーツ一本足からの脱却を図るのがリブランディング推進室の役目だ。「スーツは買い替え頻度が数年に1度だが、シャツなどはもっと高い。また、スーツに比べてサイズが厳密ではないため、ECサイトでも購入しやすい」(平松氏)。ただし、その実現に求められる猶予は、もはや5年などという悠長なことは言っていられない状況に陥っている。 平松氏がまず取り組んだのは「ヒーロー商品を見つけること」だ。漠然と「ビジネスウエア」を打ち出したところで、定着した認識はそう簡単には覆らない。象徴的な商品を打ち出し、その商品をきっかけに他の商品にも目を向けてもらおうという発想だ。目を付けたのが「ノンアイロンマックスシャツ」だった。高い形態安定性を誇り、洗濯後にしわがほとんどなく、アイロンがけ不要という特徴を持つ。速乾性も高く、夜間に洗濯して干しておけば、翌日は着用可能という。 ところが「魅力的な商品なのに全然知られていなかった」(平松氏)。シャツのような消耗品は気に入ってもらえればリピート購入につながりやすい。また、他社ブランドからの転換も期待できる商材だ。そのためにはまず商品を認知してもらい、そして試してもらう必要がある。「洗濯して干した後、しわがない。そういう効果を目に見えて分かりやすい形で伝えることが必須になる」と平松氏は考えた。 そうした特徴はいくら自社サイトで事細かく説明しても伝わりにくい。百聞は一見にしかず。まずは試してもらうのが最も効果を実感しやすい。そこで、青山商事が始めたのが19年秋から複数回実施した、1店舗10枚限定でノンアイロンマックスシャツを10円で販売するキャンペーンだ。 ●無料ではなく10円販売にこだわったワケ 無料ではなくあえて10円にした理由について、「無料で配ると、意外とありがたがられない。限定数を10円で販売することで、欲しいという感情になる」と平松氏は持論を語る。平松氏は前職のラーメンチェーンの幸楽苑ホールディングスで、10円で新商品を食べられるキャンペーンを実施して成功を収めた実績を持つ。消費者心理を巧みに突いた価格設計だったわけだ。 このキャンペーンの展開と併せて、自社のSNSの見直しを図った。青山商事はこれまでマス広告を中心に展開してきたが、「スーツの青山という認識が強いうちは、スーツを着ない層には無意識のうちに無関係な広告と思われてしまう」(平松氏)。なまじ認知度が高いが故に、無意識のフィルタリングが働きやすい。そのため、違うアプローチで情報を届ける必要があった。SNSはコンテンツファーストで情報が広がる傾向がある。興味を持ってもらえるコンテンツを配信すれば、ブランドの認識と関係なく興味を持ってもらえると考えた。 特に強化を目指したのは「Twitter」。「情報拡散という意味で、Twitterがどのメディアよりも広く届く」(平松氏)のがその理由だ。ただし、きちんと青山商事の商品のターゲット層に届けなければ意味がある情報にならない。ところが、それまでのTwitter運用はテレビCMのタレントなどのコンテンツ頼み。1万7000人程度のフォロワーはついていたが、「タレントのコンテンツで集めたフォロワーは、青山商事のファンではない」(平松氏)ため、顧客にはなりにくかった。そこで、商品に関連したコンテンツやキャンペーンを軸としたフォロワー獲得へと運用方針を変えた。SNSの再強化に当たっては、SNS活用支援のアライドアーキテクツの協力を得た。