Yahoo!ニュース

IDでもっと便利に新規取得

ログイン

独仏主導の「欧州復興基金」に分裂の暗雲。オランダ、北欧諸国など「新ハンザ同盟」の動きが気になる

配信

  • この記事についてツイート
  • この記事についてシェア
BUSINESS INSIDER JAPAN

「返済不要の補助金」が引き起こす対立

もっとも、現状はあくまでドイツとフランスによる共同「提案」だ。具体的な内容は5月中に欧州委員会から示され、最終決定は6月に持ち越される。 また、ドイツ以外の国がすべて納得したわけでもない。返済不要の補助金という形式に反意を表明している国もある。オーストリアのクルツ首相は独仏提案に反対した上で、オランダ、デンマーク、スウェーデンと連携する構えを示している。 ここで、いま想定されている復興基金の内容を簡単に説明しておこう。 欧州委員会が目下検討中とされる案では、基金の原資は複数年(2021~27年)から編成されるEU予算を一時的に増額した上で、それを裏づけに債券を発行することになっている。つまり、増額分に応じて各国は拠出額を引き上げる必要が出てくる。 拠出額の引き上げは全会一致を要する決定事項。前述の「融資」ではなく「補助金」という論点で各国の意見がまとまらなければ、全会一致も難しくなり、したがって復興基金も画餅に終わるというシナリオもあり得る。 現状では、5月27日に欧州委員会の案が公表され、6月18日からの欧州理事会(EU首脳会議)で最終合意を目指す予定となっている。ということは、この非常事態のなかで1カ月も議論を引っ張った挙げ句に最後は合意できず、という最悪のパターンもまだ残されているわけだ。 欧州理事会がひとたび決裂した過去(4月23日)を思い起こせば、ドイツが譲歩に至ったことは大きな進歩といえるものの、それ以外の問題は何も解決していない。 4月段階では、復興基金の規模が1兆ユーロになるとの見方も出ていた。それを半分の金額にして(各国の拠出金を抑えた)代わりに、融資ではなく補助金にするという落としどころを探った……という舞台裏が透けてみえるが、それでも合意できないとなると、事態はさらに悪くなったとも考えられる。

大国主導に反旗をひるがえす「新ハンザ同盟」

筆者は、独仏の共同提案を出発点とすること自体が障害になる可能性もあるとみている。 目先でいうと、反対国の筆頭にいたドイツが、オランダを筆頭とする反対国を説得できるかが問われる局面だが、そもそもいま反対している国々は大国主導の意思決定を快く思っていないという背景がある。 欧州債務危機(※)の際に顕著だったが、EUではドイツとフランスによる共同提案や共同会見が先んじて行われ、それをもとにユーロ圏やEUレベルでの重要決定に至ることが多かった。メルコジ(メルケル&サルコジ)だとか、メルクロン(メルケル&マクロン)とか、独仏主導を揶揄する造語も多く生まれた。 ※欧州債務危機……ギリシャの財政赤字改ざん問題をきっかけに同国の国債価格が急落。大きな債務を抱えるポルトガルやアイルランドに飛び火したのち、スペインやイタリアといった域内の大国にまで影響がおよんだ。 そうした通例に対し、近年では、域内全体にかかわる論点については大国だけで決めるべきではないという空気感が生まれてきている。 その流れをけん引するのが「新ハンザ同盟」と呼ばれる勢力で、オランダ、アイルランド、北欧(デンマーク、フィンランド、スウェーデン)、バルト(エストニア、ラトヴィア、リトアニア)の8カ国から形成される。総じて豊かな小国の集まりだ。 2018年3月には非公式の財務相会合を開催し、「経済通貨同盟(EMU、ユーロ圏を指す)の将来はEUの全加盟国で議論すべき」との共同声明を出して注目された。 声明では「今後の統合深化については、権限の委譲ではなく真の付加価値を追求すべき」といった旨の指摘もあり、共同基金の設立やそれを返済不要とする構想に難色を示しそうな立場を明示している。 今回の復興基金の反対勢力にも、オランダやデンマーク、スウェーデンといった新ハンザ同盟を形成する国々が名を連ねていることを踏まえると、独仏共同提案が現在報じられている形で残ったまま合意に至るとは考えにくい。 ラフに言えば、どんなに素晴らしい案でも、独仏主導というだけで新ハンザ同盟の「癇(かん)にさわる」可能性がある。 さて、EU予算を一時増額し、それを裏づけに債券を発行して資金を調達するという(検討中の)復興基金案。債券を通じて調達した資金を、返済不要な補助金として交付すれば、当然のことながら「債券が償還される際の負担をどうするのか」という論点が浮上する。 支援する側の健全国からすればきわめて重要な論点で、本当に補助金方式でいくのであれば、その出口まで含めて新ハンザ同盟の国々との合意を取りつけなければならない。 冒頭にも書いたように、復興基金にはEUの永年の悲願ともいえる共同債発行への一里塚としての期待もかかるのだが、その道は依然として相当に険しいものと考えたほうがよさそうだ。 ※寄稿は個人的見解であり、所属組織とは無関係です。 唐鎌大輔(からかま・だいすけ):慶應義塾大学卒業後、日本貿易振興機構、日本経済研究センターを経て欧州委員会経済金融総局に出向。2008年10月からみずほコーポレート銀行(現・みずほ銀行)でチーフマーケット・エコノミストを務める。

唐鎌大輔

【関連記事】