競合続々、バスクチーズケーキをめぐる戦い――コンビニ業界で「鬼門」だったチーズケーキを変革
「それなら、最初から」と考えた。短くて語感のよい商品名にしたらどうだろう。すでに社内では、短くて呼びやすいという理由から「バスク」とか「バスチー」などという名称を使っていた。いつ振り切ったのか。井上さんはこう振り返るのだった。
「販売促進の担当メンバーと、夜まで議論をしていたら疲れてしまって、飲みに行ったんです。そしたら2人で意気投合し、『やっぱ、バスチーでいいよね!』となったんですよ」
名称をポップに振り切ったあとは、パッケージも目に鮮やかな黄色にした。ところが、東條さんは口ごもった。「社内で、なかなか支持を得られなかったんです」
実はコンビニ業界で「チーズケーキ」は売りづらく、「鬼門」の商品だった。社内でも数限りない商品が作られてきたものの、まずもってその見た目は個性を出しづらい。味を変えても特徴が出しにくく、厳しい目線で見られたが、東條さんらはテスト販売に踏み切る。
テスト販売の舞台は、スイーツが平均的に売れる店舗を選んだ。販売価格は100円台、200円台で4パターンを設定した。結果は、
「……どれも驚くほど売れた!」
200円超えという高価格帯のものが売れたのは驚きだった。
「コンビニでチーズケーキというジャンルは売りづらい」――その思いこみをローソンが打開した瞬間といっていいだろう。
コンビニスイーツがもっとも売れる季節は、クリスマスのある12月だ。ローソンでは、チーズクリームで雪化粧をした「スノーバスチー」という新商品を発売するという。様々なスイーツが投入されるこの時期、入れ替わりに退場していく商品は多いけれど、新バージョンまで用意されるバスチーへの期待は大きい。新たな定番に名を連ねても、なんら不思議ではない。
吉岡秀子(よしおか・ひでこ)
北海道生まれの大阪育ち。関西大学社会学部卒。2000年ごろからコンビニ取材を始め、以来、商品・サービス開発の舞台裏やコンビニチェーンの進化を消費者視点で追い続け、各メディアで情報発信している。最新刊に『コンビニ おいしい進化史』(平凡社)。著書に『セブン-イレブン 金の法則』(朝日新書)などがある。