「未来のデジタルアート」はどこへ行く? Beeple(ビープル)の中国での最新個展から探る
Beepleの描くディストピアは現実と呼応するのか
2024年現在のBeepleのInstagramフィードは、インターネット・ミーム以外にもドナルド・トランプ前アメリカ合衆国大統領、イーロン・マスクの顔などを組み合わせた不気味で示唆的なディストピアの近未来であふれている。ちょうど南京への渡航のタイミングで次期アメリカ大統領選の決着が出て、プレス陣はなおのこと風刺だけではない予兆のようなものをBeepleの作品に感じていた。 ディストピアと形容される作風の多いBeepleだが、本人は「私は楽観主義者でも悲観主義者でもありません」と語る。「将来起こることは、非常に奇妙なものになると思います。テクノロジーが互いに影響し合い、交じり合うにつれて、私たちが予測できないような奇妙なことが起こるでしょう。それが私が伝えようとしているものです」 展示壁にあわせて掲げられたフラップ式のカウントダウンも、逆説的にこの2122年を人類が迎えることがないかのような「終末思想」を想起させる。 翻って、《Everydays》は5000枚もの絵で構成されるボリュームが話題を呼びつつも、オークション落札時にはその内容のマッチョさや、人種差別主義的なドローイングが含まれていたことは批判の対象にもなった。たしかに「アート」として1枚1枚がよい絵かどうかは、議論の余地があるだろう。本作の場合、フォーマットやOSが日々変化し続けるというデジタルの特性に基づく難度をクリアしながら、5000日以上続けて描き続けたということへの評価が、オークション落札金額を跳ね上げた理由のひとつとなった。しかし、成果物が「絵画」として評価の高いものになるかというと、必ずしもそうとは限らない。日々のドローイングや連作を数年にわたって展開した作品は美術史上、さして珍しくはない。批評家、キュレーターたちはどう評したのか。
脇を固める豪華キュレーター陣と、ショッピングモールの美術館の本気度
「5000枚のイメージと価格に話題が集中したが、中身が何だったのかは語られてこなかった」と語るのはキュレーターのハンス・ウルリッヒ=オブリストだ。サーペンタイン・ギャラリーのアーティスティック・ディレクターのオブリストが、この展覧会のアドバイザーも務める。テクノロジーをアーティスティッククリエイションにアップデートしていく作業は、極めてパフォーマティヴで「儀式的」な作業だと評した。 M+でBeepleの展示を担当したサニー・チュンは、「私たちは漸進的に進歩し続けるファンタジーのような社会にいるという前提だとすると、最終的にいつかは目的地にたどり着く。Beepleの作品群をまとめて見ることで、次はどの方向に向かうのかという終わりなき問いに対して、答えを出せるかもしれない」とコメントした。 クリスタル・ブリッジズ・ミュージアム・オブ・アメリカン・アートでBeepleの展示を手掛けたシュシャ・ロドリゲスは、デジタルアートが5次元や6次元の存在に至ったと言えるだろう、と語る。かつてキュビスムとシュルレアリスムが4次元の壁を壊して発展させたと言えるが、デジタルアートでの5次元とは、内省的、社会的、文化的なもの、6次元ではコレクティヴであることを指摘する。オンラインで感想をシェアし、伝えることでフィードバックを得て集団で体験が共有される、と話した。 そもそも、これだけの展覧会を企画し、オブリストをはじめとした大物批評家を招聘するDeji Art Museumは、2017年に開館した巨大なショッピングモールの最上階に位置する私設美術館だ。南京、中国の伝統美術、絵画を蒐集するのはもちろん、近年はチームラボの個展を開催し、レフィーク・アナドールの作品も収蔵するなど、精力的にデジタルアートに力を込めてきた。企画力モールが運営する美術館としては、日本の1970~90年代のセゾン美術館を大いに彷彿とさせるが、1万平米を超えるワンフロアすべてを美術館の機能とし、多数のコレクションを抱え、ほぼ常設の規模の展覧会を4件も開催し続ける。まだ開館から日が浅いとはいえ、その・収集力には目を見張るものがある。