個の力を上げ、勝ちへの意識を浸透させないとセはパに勝てない【大島康徳の負くっか魂!!】
左打者警戒のあまり……
日本シリーズは、ソフトバンクが4連勝、一方的な展開になりました。 「菅野(菅野智之)でもし落としたら、巨人の4連敗もあるな」とは思っていましたが、そのとおりになってしまいました。 NPBで史上初の打率4割達成していた? 史上最強の「助っ人外国人」とは 巨人としては、やはり柳田(柳田悠岐)をはじめ、ソフトバンクの上位打線の左打者をかなり警戒していたのだと思います。そこへもってきて、先発が降りた後のピッチャーに不安があった。それで戸郷(戸郷翔征)を中継ぎに回したのですが、それによって先発の番手にひずみが生じてしまいました。第2戦に左腕の今村(今村信貴)を持ってきましたが、まったく機能せず。2戦目でズタズタにやられてしまっては、勝ち目がなかったですね。 ソフトバンクの左打者は、選球眼もいいし、左投手を苦にしない。それに、基本的にパ・リーグのほうがボールの速いピッチャーが多いので、どの打者も150キロぐらいだったら普通に対応してしまう。だから単に左投げでスライダー系のボールを持っているだけではなかなか通用しないんですね。そこのところに気づかずに、セ・リーグと同じ攻めをすると、やっぱり苦しいことになります。かといって、高低をうまく使える先発投手がいるかといったら、巨人にはあまりいませんけどね。 ソフトバンクの投手対巨人打線では、やはり第1戦の千賀(千賀滉大)ですね。昨年、第1戦で内角を意識させられ、翻ろうされた。今年も、第1戦の第1打席で岡本(岡本和真)が内角球でバットを折られ、巨人打線が「今年も内角攻めで来るんだな」という印象を持ってしまった。そのあとを見ていると、実はソフトバンクのバッテリーは、今年はそんなに内角攻めをしていません。この辺が甲斐(甲斐拓也)のリードのうまさですよね。第2戦の石川(石川柊太)も、外一辺倒で抑え切りましたから。巨人は昨年、内角攻めで抑えられた印象が抜け切らないままに戦ってしまったのではないでしょうか。
「勝ちへの意識」の差が
両チームの打線を比べると、例えば「思い切りいきなさい」という指示があったとき、ソフトバンクの打者は、冷静な選球眼をもって、ボールを絞り込んで思い切り振る。巨人の打者は、ソフトバンクに縦の変化を持っているピッチャーが多いので、追い込まれる前に、とストレート狙いでいってボール球を振らされ、相手有利のカウントをつくられてしまう、という違いも感じました。 若い選手をやり玉に挙げる、ということではないのですが、意識の点で象徴的だったのは第4戦の9回表、一死一、二塁の場面です。ここで田中俊太はカウント3-0から打って出て、結局三振でした。ここ、振りますか? 坂本(坂本勇人)や、丸(丸佳浩)や、岡本だったら分かりますが、年にホームラン1本か2本のバッターだったら、フォアボールでつなぐことを考えたほうが確率は高いですよね。森(森唯斗)はアップアップしていましたから、フォアボールの可能性は結構あったと思います。この試合では7回の重信(重信慎之介)もボール球を振って三振していますし、ちょっとその辺の意識の甘さが、巨人の中にはあったと思います。 それがどこからきているのかというと、ソフトバンクとの「勝ちに対する意識」の差だと思います。「勝ちに対する意識」が高ければ、「この場面、自分は何をするのがベストか」ということを考えますから。そういう考え方がどれだけの選手に浸透しているか、と考えたら、ソフトバンクとの差は大きいと思います。ソフトバンクは、それぞれの打者の役割も明確ですし、「この打席でへまをしたら、もうゲームに出られないかもしれない」という気持ちも強いので、その辺の意識は高いと思います。 レギュラーシーズンと違って、そういう細かいところが、結果に大きくつながってくるのが、短期決戦なんですよね。1打席、1球の球際。そういうものが重くなってくるゲームで、いつもと同じ意識で、そのカウントでスイングをしにいってしまう。そういうところに差があると思いますし、それが巨人が勝てなかった一つの要因だと思います。そういう、「勝ちに対する意識」というものをしっかり植えつけていかないと、簡単にはヒットできないボールを投げるパ・リーグのチームに勝っていくのは難しいと思いますね。 こうして見てみると、セ・リーグとパ・リーグは、ちょっと力に差がついているように思います。セ・リーグは、ピッチャーの攻め方が、「かわす」というのが基本で、速くて強い、質のいい真っすぐを投げるピッチャーが少ない。パ・リーグは、そういうピッチャーが、各球団にたくさんいるんですよね。だからバッターのスイングの強さ、ボールの見極め、読みといったものが、自然に磨かれていく部分がある。セ・リーグのレギュラーシーズンでは、それが少ないと思います。このシリーズに関しては、全試合DHがあったとか、巨人は東京ドームでホームゲームを戦えなかったということもありますが、それ以前に、まずベースとして、個の力をつけ、同時に「勝ちへの意識」を浸透させていくということが必要だと思います。 セ・リーグの各チームの打者は、まず、ピッチャーの投げている1球に対する自分の力を上げていくこと。ソフトバンクのバッターは、空振りしても自分のバットが背中をたたくぐらい振っていますよ。そうやって個の力を競争によって上げていって、同時に「勝ちへの意識」を持った集団として、全員でスキなく攻めていく。そういうことのできるチームが、1チームだけでなく、何チームか出てこないと、なかなかリーグ全体のレベルが上がってこないのではないかと思いますね。 PROFILE 大島康徳/おおしま・やすのり●1950年10月16日生まれ。大分県出身。右投右打。中津工高からドラフト3位で69年中日入団。3年目の71年に一軍初出場の試合で本塁打を放つ。76年にはシーズン代打本塁打7本の日本記録。翌77年に打率.333、27本塁打の活躍で不動のレギュラーとなり、79年にはリーグ最多の159安打、36本塁打、リーグ3位の打率.317の大活躍。83年には36本塁打で本塁打王にも。88年に日本ハムへ移籍、90年には史上最多の2290試合を要して2000安打に到達した。94年限りで現役引退。2000年から02年まで日本ハム監督も務めた。現役通算成績2638試合、2204安打、382本塁打、1234打点、88盗塁、打率.272。
週刊ベースボール