考察『光る君へ』26話「中宮様が子をお産みになる月に彰子の入内をぶつけよう」愛娘をいけにえとして捧げる道長(柄本佑)に、権力者「藤原道長」を見た
実際にやらかしたらしい痴話喧嘩
熱い新婚時代を過ごしていた宣孝とまひろだが、価値観の相違が露になってきた。 被災した孤児たちに炊き出しをするまひろと、それを訝しげにとらえる宣孝。 「あの子たちには親がおりませぬ。食べ物を与えてやらねば間違いなく飢えて死にます」 「それもいたしかたない。子どもの命とはそういうものだ」 宣孝の言葉は冷酷に思えるが、数多く子が生まれ数多く死んだ時代である。当時としては平均的な感覚ではないだろうか。しかし、道長が直秀の死を背負ったまま政に向き合っているのと同じく、まひろは字を教えていた、たね(竹澤咲子)の死を負いながら、この世に自分が生きる意味を見出そうとしている。 そして物事の捉え方の決定的な違い、まひろの手紙を持ち歩き、他の女に見せていたという事件。これは紫式部の和歌の自薦集『紫式部集』に、 文散らしけりと聞きて「ありし文ども、取り集めてをこせずは返事書かじ」と言葉にてのみ言いやりければ「みな、をこす」とて、いみじく怨んじたりければ… (手紙を他の人に見せてまわっていたと聞いて、私が送った手紙をお返しくださいませ。そうでなくば返事はもう書きませんと従者にことづけると、夫はすべて返しますと、ひどく恨みごとを言ってよこした) と書かれた実際にやらかしたらしい痴話喧嘩である。ふたりの間ではこの件で諍いの和歌が交わされ、ドラマでは佐々木蔵之介のナレーションで表現された 「たいしたことのできない、人数にも入らない私はあなたに腹を立てたところで甲斐がありませんね」 (たけからぬ人かずなみはわきかへりみはらの池に立てどかひなし) 宣孝のこの和歌で締めくくられる。 自分の手紙と和歌が知らないところで誰かに読まれてしまったことに憤る紫式部だが『紫式部日記』では後年、彼女自身が他人の手紙を盗み読みしたエピソードが綴られているのだ。なので「あなたがそれを怒りますか」とは思うが、25話での清少納言の「(枕草子は)中宮様のためだけに書いたものでございます」という台詞を思い出すと、創作者にとっては「誰のために・なんのために」作品を生み出すかが大切であるということかもしれない。 これを機にしばらく来なくなった宣孝だが、まひろは弟・惟規(高杉真宙)から、夫の新しい女のことを聞かされる……。 「私より、ずっとずーっと若い女なの!?」 そりゃ確かにまひろは宣孝よりは20歳近く若いのだが、現在彼女は30歳前。当時としては結構なトシの女である。若い女の出現。中宮・定子にとっての彰子とのリンクだろうか。 ナレーションでは「許す、許さない。別れる、別れない。文のやり取りが交わされ」とあった。『紫式部集』では、 紫式部 入るかたはさやかなりける月影をうはの空にも待ちし宵かな (ゆく方角ははっきりわかっている月を……他の女のところに行くのだとわかりきっているあなたを、それでも上の空で一晩待っておりました) 藤原宣孝 さして行く山の端もみなかき曇り心も空に帰りし月影 (目指す山の端が曇っているのが見えたかのように、あなたのご機嫌が悪いのが察せられたので足が向かなかったのです) など、冷えていく夫婦関係が手に取るようにわかる歌のやり取りが残されている。 そしてドラマでは、自分よりも若い女にうつつを抜かす夫にキレて火鉢の灰をぶつける……。道長と秘密裡に交際していた時には抱いたことのない、どす黒い思い。まひろは嫉妬を知った。 とても苦しくつらいことだが、この先『源氏物語』で六条御息所も、髭黒右大将の北の方も書く作家となるのだなと思えた場面だった。 それにしても、段階を踏みながら愛が冷める男の表情。佐々木蔵之介が上手いったらありゃしない! 腹が立つのに、本当に見ごたえあるなあと拍手してしまう、悔しいけれども。 まひろが皆に提案する、石山寺参拝ツアー。 おお、石山寺! また何か『源氏物語』に繋がることが起こるのですか……? とワクワクして見守っていたら。深夜にひとり読経するまひろのもとに、キラキラした何かと共に現れた殿方……えっ。道長!? これは幻? 現実? そのキラキラは一体なに!? 次回予告。大喜びで訪れる宣孝「良い子を産めよ」まひろ「この子は私ひとりで育てます」ま、まひろ……妊娠? 一条帝と定子に皇子?「皇子かぁ」東宮・居貞親王がっかり。鳴弦の儀!『あさきゆめみし』で見たやつ! 黒白のハチワレ猫ちゃん。小麻呂じゃないね、この猫ちゃんはもしや……『小右記』と『枕草子』に登場したあの子? 赤染衛門先生、おひさしぶりです。まひろと道長抱き合っちゃった────サブタイトルは「宿縁の命」! 第27話が楽しみですね。 ******************* NHK大河ドラマ『光る君へ』 脚本:大石静 制作統括:内田ゆき、松園武大 演出:中島由貴、佐々木善春、中泉慧、黛りんたろう 出演:吉高由里子、柄本佑、黒木華、吉田羊、ユースケ・サンタマリア、佐々木蔵之介、岸谷五朗 他 プロデューサー:大越大士 音楽:冬野ユミ 語り:伊東敏恵アナウンサー *このレビューは、ドラマの設定(掲載時点の最新話まで)をもとに記述しています。 *******************
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