考察『光る君へ』26話「中宮様が子をお産みになる月に彰子の入内をぶつけよう」愛娘をいけにえとして捧げる道長(柄本佑)に、権力者「藤原道長」を見た
中宮様はしたたかな御方
彰子の入内に母である倫子(黒木華)は大反対。左大臣の姫であった自分は入内せずに婿を取った。いま幸せなのだから、愛娘を権力闘争の真っただ中に放り込む気は毛頭ないのだ。 この場面で興味深いのが、倫子の「中宮様は出家してもなお、帝を思いのままに操られるしたたかな御方」という言葉。定子(高畑充希)は賢いし、本人がそのつもりで力をふるえば実際したたかだろうとは思うが、帝を操る悪女というイメージは、視聴者である我々にはない。一条帝の妻とその家を守れなかったという自責の念と、今度こそは必ず守るという執着が女に溺れ切っている暗愚な君主のように彼を見せ、定子を傾国の中宮、したたかな女という悪評を定着させてしまった。 それにしても、黒木華は見事……放送の序盤、3話での初登場時はサロンの姫君だったのに26話の今では頼もしい母だ。物語の中では永観2年(984年)から長保元年(999年)までの15年間の時間経過を、たった半年の放送期間に芝居で見せている。 「不承知にござります!」 父・雅信(益岡徹)譲りのNOの言い回しで、娘を朝廷とこの国の安寧のためのいけにえとすることを、その場では突っぱねた。 そして、その足で倫子は母・穆子(むつこ/石野真子)に相談にゆく。これまでもレビュー13回、19回で触れたが、倫子、左大臣家の強みはこの穆子が倫子の相談役であることである。 「ひょっこり中宮様が亡くなったりしたら?」 「中宮様は帝よりも4つもお年が上でしょ。そのうちお飽きになるんじゃない」 年の功というのか、穆子はこれまで見聞きした様々な女の人生と照らし合わせて語る。 定子は貞元元年(976年)生まれ、この時点で23歳。『紫式部日記』で紫式部が、 「いたうこれより老いほれてはた目暗うて経読まず……」 (今以上に老いぼれ、あるいは目が悪くなってお経も読めなくなり……) と書いたのが40歳前の厄年──37歳頃かとされる。当時は、現代とは高齢者の基準がまるで違った。定子よりも10歳以上若い彰子にとって、時間が味方してくれるのではと穆子は指摘している。おっとりとした口調で言うことはえげつないが、頼もしい。 しかし父・道長に入内のことを切り出されても、いや何を言われても、 「仰せのままに」 としか応えない彰子を見ると、この姫が聡明で才気煥発な定子に太刀打ちできるとはとても思えないのだった。一条帝の定子の寵愛は、倫子の言う「色香」ゆえだけではないのだから。
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