中学生に「3000件」を超える誹謗中傷 「おもしろいから」でエスカレート 川口いじめ事件からの教訓
インターネット上の誹謗中傷は、大人の世界にかぎった話ではない。子どもが加害者や被害者になることもある。 発信者特定までの流れ 埼玉県川口市の中学校でいじめに遭い、不登校になった元男子生徒(18歳)の場合、匿名掲示板で3000件をこえる誹謗中傷の書き込みをされた。 特に悪質な4件の書き込みについて発信者情報開示請求をおこない、投稿者3人を特定。2人は元同級生、残る1人は元同級生の父親だったという。その後、3人と和解している。 事件を担当した荒生祐樹弁護士は、相談があった2018年から誹謗中傷をめぐる状況は変わっておらず、子どもが当事者となるケースは今も少なくないという。 「中傷する側の意識を変えるためのアプローチが必要なのではないか」と指摘する荒生弁護士に、詳しく話を聞いた。(編集部・吉田緑)
●大人も子ども同様に「学ぶ機会」を
ーー子どもや保護者、学校の先生などからネットトラブルに関する相談はありますか。 川口市の事件が報道されてから、誹謗中傷を受けた子どもの保護者や直接学校の先生からの相談がいくつかありました。子どもから直接ネットトラブルの相談が来たこともあります。 最近多い「ネットいじめ」といえるものとしては、LINEグループの問題です。中学や高校入学後にまずはクラスや部活などのグループが作られると聞きますし、そのほかには塾などコミュニティの数だけグループがあるように思います。 LINEでのネットいじめの内容としては、典型的なものは直接の誹謗中傷やブロックする・した・された、といったことですが、他にも特定の子どもにグループの存在を教えず「裏アカウント」を作成してやりとりをしていたり、グループ内で特定の子どもをスルーしてやりとりがおこなわれたりといったトラブルを聞きます。 LINE以外ですと、インスタに同級生の家族の写真を上げてしまった、ユーチューブに面白半分で動画を載せたら全くの他人に拡散されてしまった、というものがありました。また、中傷してしまった側から「実名を匿名掲示板に書いてしまったけれども、どうやって消したらいいか分からない」といった相談もありました。 「おもしろいから」と気軽な気持ちでおこなったことが、思わぬトラブルに発展したり、いじめや権利侵害につながったりしてしまうケースがみられます。 「ネットにこれを載せたら(書いたら)どうなるのか」という想像力を働かせることが必要でしょうし、この点について子どもたちが学ぶ機会も必要だと思います。 ーー元生徒に対する中傷をおこなった投稿者の中には、元同級生だけではなく、元同級生の父親もいました。誹謗中傷を減らすため、大人と子どもそれぞれに対して、どのようなことが必要だと思いますか。 大人も子ども同様に、SNSの使い方について学ぶ機会が必要だと思います。 特に、大人になってからスマートフォンやインターネットに関わった世代だと、SNSをめぐる問題以前に、SNSというものの理解が十分ではない、ということが少なくありません。これは保護者だけではなく、学校の先生も同じことだと思います。 そういった意味では、子どもと大人とでは違った視点での啓発、教育が必要だと思います。 子どもの場合は、「誹謗中傷することで相手がどんな気持ちになるのか」「自分がやっていることがどういう意味を持つのか」ということを理解できていないように感じることが少なくありません。まずは、この点に関する教育が必要だと考えています。 子どもたちや保護者・教員向けに弁護士会が法教育の一環で出張授業をおこなう取り組みがありますが、このように外部から専門家を招いて学ぶ機会を設けることについて私は賛成ですし、今後も積極的におこなわれていくとよいと思います。