仕事にスピードはどこまで必要とされるのか?
■連載/あるあるビジネス処方箋 昨年秋、仕事のスピードを上げるコツをテーマにしたビジネス雑誌の特集の記事を書いた。その時に感じながらも、特集の趣旨を踏まえる以上、書けなかったことを述べたい。 結論から言えば仕事を早く、正確に終えようとするならばそれが強く求められる業界、会社、部署、上司、同僚、取引先、顧客の中にいないといけない。これは当たり前のようでいて、実は多くの人が見失いがちだ。実際は、スピードが求められていない業界や会社、部署は少なくない。 例えば、私が関係する出版業界は新聞業界と比べると、全般的にのんびりしている。私が接する出版社の会議の時間は長く、回数も多い。1人ひとりの発言も長い。聞いていると、睡魔に襲われる場合がある。編集者の電話やメールのやりとりは、IT業界と比べると少なくとも2日は遅い。 私が仕事で関わるIT企業も、社員数が300人以下の場合は同一業界の1000人以上の企業と比べると、特に意思決定のスピードは数日~10日間は遅い。しかも、朝令暮改も多い。それほどに組織が未熟で、上司の指揮命令や役割分担がおそらく曖昧なのだろう。 こういう職場で「仕事を素早く終えよう」と力んだところで、空しい努力と私は思う。そもそも、スピードが重視されないのだから、早く完了をしたところで高い評価を受ける可能性は低いだろう。むしろ、「がんばっているね」と仕事をどんどんとふられるようになり、ついには便利屋として使われるのではないか。私が30代の頃、会社員の晩年、こんな日々だった。こんな職場は正直者が馬鹿をみる構造になっているから、必要以上のがんばりはいらない。最後は、心身を壊すことになりかねない。 前述のビジネス雑誌の特集は、大勢の人に購入してもらえるようにあたかもあらゆる職場でスピードが求められているかのような趣旨だった。だが、私の認識ではそのような事実はありえない。まず、ここを見極めることが大切だ。つまり、職場で求められる力を身につけるべきなのだ。不要なものは、とりあえずは意識するべきでない。 それでもなおも、スピードを上げたいならばとにかく、早い人と組んでみることだ。 その人を観察していると、上司や同僚らも早いはずだ。顧客も取引先も同じく、スピーディーだろう。職場で1人だけ異様に早い人はまずいないのだ。 こういう人たちは、得てして基礎学力が高い。特に小中学校での国語教育の「読む力」「話す力・聞く力」「書く力」のレベルが総じて高い。だから、メールを素早く読んで理解し、何を書くべきか、何を書いてはいけないのかを瞬時に見極めて打ち返す。打ち合わせでも深い話し合いができる。とにかく、理解力が高い。相手も影響を受け、真剣に取り組むようになる。この蓄積で仕事のスピードが早くなるのだろう。 「自分は仕事が早い」といったセルフイメージを持ち、ますます早くなる。これが、周囲に「あの人は早い」と印象を与える。事実関係としては、実はそうではない時もあるのだろうが、いったん作られた印象や評判はすぐには変わらない。初めに「早い」といった事実があるのではない。当初は思い込みなのかもしれないが、それがやがて印象や評判となり、事実となっていく。 言い換えると、周囲に遅い人が並ぶ場合は早くする必要はほとんどないのだから、身につける理由がない。そんな職場で素早く終えてがんばるほどに、便利屋としてのイメージがついて、それが現実となる。世の中には建前と本音がある。それを上手く使い分けて、生きていくことも会社員として大切な術だと私は思う。 あなたの職場でスピードは本当に求められているのだろうか。 文/吉田典史
@DIME編集部