建設会社で汗、母校でも汗 具志川商・喜舎場監督 選抜高校野球
21世紀枠校同士の対決となる第93回選抜高校野球大会第3日の第1試合。具志川商(沖縄)を率いる喜舎場正太(きしゃばしょうた)監督(33)は民間の建設会社で働きながら選手たちを指導する。「生活は保障するから具商野球部を強くしてほしい」。そう請われ、3年半前に入社し、同時に母校のコーチに就いた。選手たちの指導に当たるために職場を早退したり、長期で休暇を取ったり……。同僚らの支えで「二足のわらじ」を履いてきた。「勝利で恩返ししたい」と心に誓い、甲子園の初舞台に立つ。 【写真】センバツ応援ポスターに小泉のんさん 具志川商から車で約10分。喜舎場さんは選手たちの朝練を見届けると、正社員として働く建設会社「上門(うえじょう)工業」=沖縄市=に出社する。企画管理部に所属し、現場で働く職人の労務管理などが仕事だ。「最初は建築の『け』も分からないような状態だったので、現場を見に行って、専門用語や建築の工程などを一から学んだ」と語る。 喜舎場さんは16年前、具志川商野球部のエースだった。静岡県の大学に進学し、卒業後は静岡の私立高校で体育教諭を務めながら、野球部の副部長として指導法を学んだ。「地元で高校野球の指導者になりたい」と思い、沖縄に戻ったのは2014年。県立高校の教員選考試験を受けたが、狭き門に3年間阻まれた。 「もう一度、静岡の高校に戻って指導者を目指そうか」。そう考え始めた頃、高校時代のチームメートで、今の勤務先の常務を務める上門信太郎さん(33)から頼まれた。「うちの会社で働きながら具志川商野球部の指導を手伝ってほしい」。上門さんの父で社長の信孝(しんこう)さん(76)は喜舎場さんが高校球児だった頃、熱心に応援してくれた思い出もあった。「信頼できる人たちの下で野球の指導ができるなら」と入社を決めた。 17年秋から2年間コーチを務め、19年夏に監督になった。「地元の生徒たちで甲子園を目指そう」。喜舎場さんがそう呼び掛けているのを知り、有力な選手たちが集った。監督になって2期目の20年秋、力を付けた選手たちは県大会で準優勝し、九州大会でも8強入り。21世紀枠で初の甲子園切符を手にした。上門社長は「こんなに早く甲子園に行けるとは思わなかった。選手たちの心をつかんで、よくやっている」と喜ぶ。 「会社の人たちが支えてくれるからこそ、自分は野球ができる」。喜舎場さんはそう感謝する。野球部の練習開始に合わせて午後3時には職場を出る。学校が長期の休みに入れば、練習は日中もあり、仕事を休まざるをえない。「とても気を使います。自分の代わりに仕事を頼む人には茶菓子を渡したり……。今回のセンバツ出場は、自費で記念の帽子を作って、一人一人の机に置きました」と笑う。一方で、民間会社での経験は選手たちの指導にもつながっている。時間の厳守や練習前の準備の徹底など、「社会の厳しさを知っているからこそ伝えられることがある」と語る。 甲子園への出発を前に、上門社長からは「いいか、喜舎場、甲子園ほど人を育ててくれるところはない。全ては指導者次第だ。試合の流れをよく見て、手を打つんだぞ」と激励された。沖縄から21世紀枠で出場するのは同枠が創設された01年大会で4強入りし旋風を巻き起こした宜野座以来。「沖縄の人たちに、甲子園に響く具商の校歌を聞かせたい」。そんな一心で、喜舎場さんはベンチから采配を振る。【遠藤孝康】 ◇全31試合を動画中継 公式サイト「センバツLIVE!」では、大会期間中、全31試合を中継します(https://mainichi.jp/koshien/senbatsu/2021)。また、「スポーツナビ」(https://baseball.yahoo.co.jp/senbatsu/)でも展開します。