米大統領選2016(上)保守派からも“トランプ降ろし” 混沌の共和党予備選
「トランプ現象」とは何だったのか
保守派がトランプの足を引っ張ろうとしているのは、トランプが共和党の指名獲得に至ってしまうのを徹底的に阻止しようという動きに他ならなりません。トランプはそもそも泡沫候補であり、いずれ消えていくはずでしたが、予備選開始を前にした段階まで予想以上に健闘してきてきました。 予備選が実際に開始する前のこれまでの「影の予備選(シャドー・プライマリー)」では、支持率だけが勝負の中心です。一種の人気投票のようなものであり、長年テレビ出演を続けてきたため、「親しみがある」人物であるトランプは圧倒的に有利です。さらに、このテレビ出演で体得したトランプの人々の心を読む才覚は鋭く、テレビの前にいる潜在的な支持者の意見を的確にとらえる数々の発言を来り返してきました。その中には「イスラム教徒入国拒否」に代表されるような暴言もありますが、イスラム過激派のテロにおびえる一部の層から喝さいを受けたのも確かです。 また、共和党もかつてのような高所得者層や産業界を代弁する政党ではなく、白人ブルーカラー層を代弁するような政党に変貌しつつあります。トランプはこの白人ブルーカラー層に受け入れられるように、知性や理性よりも感情に訴えてきました。破天荒な発言の裏に、自分の人気を最大化させるようとする計算が常にトランプにあります。共和党討論会での欠席も、注目が集まることは間違いないとみたトランプは読んでいたのでしょう。どの視聴者がどのように自分を見るかを感覚的に読み解くことができるというトランプの能力が、暴言とともに逆に支持率を伸ばしてきた「トランプ現象」の本質だと思います。
“実際の買い物”は異なる結果になる?
しかし、これまで他候補を凌駕したトランプの支持率が実際の投票につながるかどうかは、非常に読みにくいのが本音です。「ウインドウ・ショッピングと実際の買い物は異なる」という大統領選挙予備選でのことわざのようなものがありますが、今年の共和党の場合、もしかしたら実際の“買い物”は大きく異なっていく可能性も大いにあります。 保守派のトランプ降ろしは他のライバルにとっては絶好の機会です。前述のティーパーティ運動の支援を受けているのが、現在、支持率ではトランプに次ぐ2位となっているテッド・クルーズ上院議員です。同運動に大きな影響力がある、トークラジオ・ホストのグレン・ベックらがクルーズの応援演説に加わり、トランプ批判を繰り返しています。ただ、共和党内の中道的な層にはクルーズに関する嫌悪感があります。というのも、ここ数年の妥協できない政治の中心にティーパーティ運動があり、クルーズは運動の象徴のように、徹底した歳出削減をゴリ押ししてきたためです。