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【F1チームの戦い方:小松礼雄コラム第2回】9週間のシャットダウンは充実。在宅勤務により仕事効率アップも

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オートスポーツweb

 2020年シーズンで5年目を迎えたハースF1チームと小松礼雄エンジニリングディレクター。メルボルンからイギリスに戻った後は、9週間のシャットダウンにより仕事はできなかったが、F1で働き始めて以来“初めて”だというある出来事が。ファクトリーの現状や開幕へ向けた準備について、小松エンジニアがお届けします。 【写真】2019年F1日本GP 小松礼雄エンジニア&ロマン・グロージャン ──────────  みなさん、お久しぶりです。いかがお過ごしでしょうか。突然ですが、僕は大学院を卒業して2003年にF1の仕事を始めて以来、ずっとレースチームやテストチームに帯同していたので、実はシーズン中に2週間以上イギリスにいたことがありませんでした(昔はシーズンオフにウインターテストもありました)。今はレースがないので、初めてこれほど長くイギリスに滞在しています。まさか仕事を始めてから17年経って、このようなことになるとは思ってもいませんでした。  3月19日からFIAのシャットダウンが始まり、期限も最初は3週間だったのが、結局5月20日まで延長されました。仕事ができない間は生活のパターンを作ろうと思ったので、朝一で走り、朝食後は家族全員でYouTubeを見ながら運動、その後は学校は休校になっていたため、午前中は子供たちのホームスクーリングをしていました。  子供たちに勉強を教えるためにイギリスの地理や歴史を勉強しなければならず大変なこともありましたが、僕が住んでいる街はローマ時代から続いているようなところなので、実生活と繋がっているところが多く楽しくやれました。  外出が制限されているとはいえ、なるべく外の自然に触れられるような生活をしたいと思い、午後は子供たちとガーデニングをしたり、野菜を育てたり、林の中に自転車を乗りに行ったりしていました。僕の住んでいるところは周りに緑が多いので、天気にも恵まれ自然のなかでできることが多くて助かりました。こんなことは一生に1度しかないと思いますが、家族での時間を有意義に過ごすことができました。  そしてようやく5月末から、在宅勤務という形で仕事に戻りました。ファクトリーでは出社する人数を制限しているので、社内に用事のある人以外は行かないようにしています。開幕戦に向けてクルマを作っていますが、メカニックも早番と遅番のシフト制にして、ファクトリーにいる人数が多くならないように気をつけています。またシフトの間に1時間のギャップを設けて、その間に清掃もしてもらっています。  なるべくドアノブに触れずに済むように、ほとんどのドアは開放していますし、会社に来る人は全員が受付で体温を測り、万が一37.5度以上だったらすぐに帰宅するという対策も取っています。床にはソーシャルディスタンスを意識させるように2mの間隔でステッカーを貼っています。  シフト制になってからは社内の人数が少ないので、ソーシャルディスタンスは問題ないのですが、ファクトリー内のジム、食堂やシャワー室はすべて閉めたので、残念ながら理想的な仕事環境とは言えません。そういう意味でも、在宅勤務の方が環境が良い面もあります。  ファクトリーに入れる人数を制限しているとはいえ、作業に遅れが出ているわけではありません。むしろ、以前よりも効率が上がったことがいくつもありました。  たとえばR&Dという実験などを行う部署があるのですが、仕事の流れとしてはエンジニアが組んだテストを技師が実行して、その結果をエンジニアが解析するという感じです。しかし、以前はいくらテストの実行を技師に任せようとしても、どうしてもテスト中にエンジニアが関わるケースが多々ありました。  ですが今はR&D部のエンジニアは在宅勤務なので、テストの前に今まで以上にしっかりと計画を立てて細かいところまで煮詰めて指示を出しておかないといけません。そうしたところ、技師のみで行う実験当日の作業の効率と精度が目に見えて上がったのです。  またこれまでだったら、普段デスクで仕事をしているエンジニアたちは、必要があればショップフロアにいるスタッフにすぐに相談しに行くことができました。それが在宅勤務メインの今では、まずは自宅でできることを進めておいて、出社日にまとめて疑問を解決するというやり方に変わり、全員が強制的に仕事の計画を見直さざるを得なくなったので、結果的に時間をもっと有効に使えるようになりました。  どうしても今すぐに相談しなければいけない案件などはビデオ会議などを行います。要は、状況次第で今やるべきことは何なのかということをみんなもっと考えてから行動するようになってきたと思います。  もちろん、在宅勤務の難点もあります。たとえば、実際に部品を見ながらの作業ができないことです。でも、それもよく考えるとその人の役職次第ですし、エンジニアの場合そういう状況はある程度限られています。  個人的には、この先規制がなくなっても、今までのように毎日ファクトリーで働くという形態には戻さず、在宅勤務の様々な利点も生かしてバランスのとれた勤務体制にしたいと思っています。  それから、イギリスに拠点を置くF1チームが新型コロナウイルスの医療支援の一環で『プロジェクト・ピットレーン』というプロジェクト進めていました。人工呼吸器などの数が足りないのは明らかだったので、ウチのチームのスタッフはこのプロジェクトが始まる前から数人で動き出していました。  F1チームは短時間で何かを作ることや、急な仕様変更への対応、少量生産などに慣れていますし、それに沿った購買のルートもありますから、この様な緊急事態には比較的対応しやすいんです。  プロジェクトが始まってからは、購買の部署の人は部品の手配、電気関係のスタッフは基盤のデザインや組み立て、プログラマーや制御系の人たちはソフトウェアの設計などに関わりました。 ■「日本には行かない」突然の中止発表に驚き  今年はF1日本GPが中止になってしまい、驚きました。というのも、それまで日本GPの開催が危ぶまれているという話はまったく聞いていなかったからです。  輸送の関係もあって、フライアウェイのレースについてはどれくらい早めに準備をしなければいけないのかを確認しようとF1側に問い合わせていたのですが、日本GPの中止が発表される2週間ほど前に「アゼルバイジャンとシンガポール、日本に行くことはない」と連絡をうけました。  早い段階からシンガポールGPがなさそうだというのはわかっていましたが、日本GPだけは日程をずらす可能性があること以外に何も話を聞いていなかったので、本当にびっくりしました。  7月の開幕から3連戦というスケジュールが決まりましたが、連戦の間はイギリスに帰れません。また当然ですが、現地ではホテルとサーキット以外の場所に行くことも禁止です。僕たちが泊まるオーストリアのホテルにはジムはありませんが、ジムのあるホテルに宿泊しても使用できないので、いつものように自転車を持って行くつもりでいます。  ロマン(グロージャン)とケビン(マグヌッセン)のふたりも元気そうです。ロマンはeスポーツのチームを作ってレースに出たり、自転車でかなり走り込んでいました。ケビンはずっとゴーカートに乗っていて、「オレはプロのカート選手だ」なんて言っていました(笑)。  昨年のオーストリアGPは、ウチが抱えていた問題を象徴するようなレースでした。予選ではケビンが5番手だったのに、レースでは10周もしないうちに最後尾辺りまで落ちてしまい、レースにならなかった。そのオーストリアが初戦というのは、個人的には良いことだと思っています。あのレースがどんなにひどかったかというのはチームの誰もが忘れていないし、否が応でも高い問題意識を持って臨めますからね。  同じサーキットで2レース戦うということは、開幕戦で学んだこと、学べなかったことすべてが第2戦に繋がります。開幕戦のうちに第2戦を見据えて仕事をして、開幕戦が終わったら何ができたのか、逆にできなかったのか、そして何か見落とした点はないのかなどをきちんと把握して、第2戦でそれを実行するという、今までとは違うチャレンジになります。  どういう結果になるのか、はっきり言ってあまり予測がつかないですし、2月のバルセロナテスト以降は4カ月もクルマを走らせていないので、ミスが出る可能性もあります。とにかく基本に忠実に、欲張らないで正確に一歩一歩やろうとチームのみんなには言っています。でも、ビデオ会議を通してでもみんながそれぞれ意識を高く持ってやっているというのが伝わってくるので、今は開幕戦が待ち遠しいです。 [オートスポーツweb ]

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