なぜJリーグは史上最多入場者記録を更新したのか?
同時にリーグやクラブ側もJリーグIDを介して、会員のさまざまな情報をIDごとに収集および一括管理することが可能になった。株式会社Jリーグデジタル プラットフォーム戦略部デジタル戦略担当オフィサーを務める丸山慎二氏は言う。 「JリーグIDを介して、お客様の『見える化』を推進させています。個人の情報だけではなくて、スタジアムへ来場する回数やタイミング、チケットを購入するタイミング、何人でスタジアムへ来ているのかといったさまざまな情報からチケットの平均購入単価までが、まとめて見えるようになっています」 JリーグIDを取得する際に登録したクラブから、利用者へさまざまなアプローチがメールで届く。村井チェアマンをして「一人ひとりの状況や関心、行動履歴に基づいたパーソナルなサービス」と言わしめる、さまざまなキャンペーンのなかで集客に大きく寄与したのが今夏に実施された『夏ジェイ』だ。 一度観戦するたびに公式アプリ『Club J.LEAGUE』上で手にできるメダルを3個ためる、つまりスタジアムへ3度足を運んだID取得者に、各クラブが用意した招待券を抽選で手にできる「明治安田生命Jリーグチャレンジ」の当選確率を大幅にアップさせる『夏ジェイ』を大々的に展開した。 なぜ3度目の観戦者を対象にしたかと言えば、JリーグIDを介して得た「常連化曲線」というデータで、2度目までにスタジアム観戦から疎遠になる新規顧客が多いことが判明したからだ。 逆に考えれば、3度足を運べば常連になりやすいことになる。そこで3度観戦したID取得者に特典を用意した。抽選で手に入る招待券はペアチケットに限定し、一度もスタジアムへ足を運んだ経験のない家族や友人、恋人を誘う仕組みを設けた。前出の丸山氏が続ける。 「各種のデータがたまってきたなかで、それらをさらに掛け合わせることで、利用者へアプローチするさまざまな手法が増えてきました。Jリーグの方でも月に一度、デジタル人材育成講座と呼ばれる中央集合研修を実施し、各クラブのデジタルマーケティング担当にノウハウを吸収していただき、それらをクラブへもち帰って事例を試し、成功すれば今度はクラブ間で横方向へ展開する。年間を通してこういうことを繰り返してきたことで、いま現在のような成果につながったと思っています」 今夏の『夏ジェイ』に関しても、デジタル人材育成総合講座でJリーグ側が提案。賛同したクラブが招待券を提供した経緯がある。蓄積されたデータを生かしながら、リーグと各クラブが車の両輪と化して加速させてきたデジタル戦略が奏功しての1100万人突破とJ1平均2万人到達に、村井チェアマンも目を細める。 「データやツールを使いこなせる人材が各クラブに生まれはじめ、JリーグIDの利用技術が磨かれてきている。お客様それぞれに合ったご案内やサポート、あるいは情報提供を行えるクラブは、しっかりと入場者数を伸ばしている、という実感をもっています」 もっとも、JリーグIDを介して得たデータをフル活用できているわけではない。ゆえに今回クリアした数字はあくまでも通過点であり、平均2万5237人のセリアA、同2万6886人のラ・リーガ1部を視界にとらえる平均2万4000人へ、2030年までに到達させる次なる目標への足がかりとなる。 (文責・藤江直人/スポーツライター)