【何観る週末シネマ】世界三大ウール産地が舞台、地域密着型の優しい物語『BISHU 世界でいちばん優しい服』
この週末、何を観よう……。映画ライターのバフィー吉川が推したい1本をピックアップ。おすすめポイントともにご紹介します。今回ご紹介するのは、現在公開されている『BISHU 世界でいちばん優しい服』。気になった方はぜひ劇場へ。 【写真】『BISHU 世界でいちばん優しい服』場面写真 〇ストーリー 高校生の史織は、毎朝 7 時、目覚まし時計代わりの軽快な機織りの音で起きる。明るく誰に対しても優しい性格だが、配膳の配置や歩き出しの足など生活習慣へのこだわりが強く苦手なことも多い。ある日、史織が描いた服のデザインを、親友の真理子が校内のファッションコンクールにエントリーする。さらに、真理子の提案で一宮市のファッションショーにも出品することに...真理子の協力のもと史織の服作りが始まった。それを知った姉の布美は、挫折した経験を史織に重ね、応援したい気持ちと背中を押せない気持ちの板挟みになり、父の康孝は史織が傷つくことを恐れ猛反対するのだった。だが、史織自身は服作りへの挑戦を通して様々な人々と関わったことで、ある想いが次第に強くなっていく...。 〇おすすめポイント 『ブルーヘブンを君に』(2021)や男性アイドルグループBOYS AND MENのドキュメンタリー作品など、東海地方を舞台とした地域密着型作品を多く手掛ける竹田太郎のプロデュースによる地域密着型作品。 世界三大ウール産地として知られる日本の尾州(一宮)を舞台に、後継者不足が深刻な問題として立ち塞がる現代のなかで、受け継がれるべき伝統工芸を巡って、ウールのように繊細で優しい人間ドラマが丁寧に描かれていく。 インバウンドで潤う一部の地方や文化があれば、一方で”知られていない”文化もある。これは日本人からの視点も同じであって、知らない文化というものが日本には、まだまだたくさんある。日常生活では、なかなかクローズアップされないものを改めて知ることができるのも、映画の良さである。 発達障害をもつ主人公の詩織(服部樹咲)は、人よりも優れた才能がありながらも、障害があるとして父親から過保護に扱われてきた。それを痛いほど理解しているからこそ、自分の夢を正直に語れない。ところが出戻りの姉・布美(岡崎紗絵)がきっかけとなり、一歩踏み出すことを決意する…という、王道プロットによるサクセスストーリーであり、ほど良くカタルシスのある作品だ。 『ミッドナイトスワン』(2020)で注目された服部樹咲にとって初主演作というのも注目すべき点であり、繊細な演技が得意な服部が詩織を演じていることで、言葉にしたいけど、なかなか上手くいかない。そんな内に秘めた想いというものを見事に体現していることで、王道なストーリーのなかであっても、キャラクターに厚みをもたせることに成功している。 ちなみに服部と姉・布美役の岡崎紗絵は、実際に愛知県出身。何となく地元なじみ感があるのは、それが要因だろう。 補助金などのバックアップ体制なども構築されてきていることもあり、地方活性化として、映画やドラマを活用した作品は年々増え続けているが、どうしてもそういった作品は、多少は教育映画的な側面もあり、大きな冒険ができない分、役者の演技力はもちろん、存在感や役の幅広さが重要視される。今作はその成功例といえるだろう。 (C)2024映画「BISHU 世界でいちばん優しい服」製作委員会 〇作品情報 出演:服部樹咲、岡崎紗絵、長澤樹、黒川想矢、知花くらら、田中俊介、山口智充(友情出演)、近藤芳正、吉澤健、清水美砂、吉田栄作ほか 監督:西川達郎 脚本:鈴木史子、西川達郎、義井 優 製作:「BISHU 世界でいちばん優しい服」製作委員会 (神谷商会、フォワード、ケイ・クリエイト、イオンエンターテイメント、TK事業開発研究所) 制作プロダクション:アットムービー 配給:イオンエンターテイメント 2024年10月11日(金)先行公開/10月18日(金)拡大公開
バフィー吉川