歴代政治映画ベスト20ー米政治制度を描いた指折りコメディ&スリラー傑作選
【歴代政治映画ベスト20】10位→6位
10位『群衆の中の一つの顔』(1957年) 地方出身の民衆煽動主義を、マッカーシー時代の輝かしい遺産として描いたエリア・カザン監督の手腕を褒めちぎるのも結構だ。だが『群衆の中の一つの顔』は、公開から70年近く経った今も恐ろしいほど未来を予見している。当時駆け出しだったアンディ・グリフィスが演じるのは、ギターの弾き語りで人々をとりこにして止まないアーカンソー州出身の根無し草。パトリシア・ニール演じるやり手の広報担当者に見初められ、ロンサム・ローズの芸名で国民的スターへと上り詰める。最初はマットレス会社の広告塔として、次は万能薬「ヴィタジェックス」の顔として、陳腐ナブロマイドを配って絶大的な人気を誇るTV司会者として。最終的には隠れファシズムの煽動政治家としてのさばり、恐ろしい本性を現していく。心の隙間に入り込むロンサムの天性の才能は、他人に対する辛酸な侮蔑でますます助長される。「やつらは俺が言いなりになると思ってるが、あいつらは俺よりも数倍バカだ。俺の方がお情けをかけてやる」と彼は宣言する。田舎くささ満載の表の顔から、次第にタガの外れた悪人の裏の顔へと変貌し、狂気じみた歓喜むきだしの欺瞞を見事に演じるグリフィスには、魅了されると同時に恐ろしくもなる。TV番組『メイベリー110番』の再放送で、愛すべき頼れる保安官を演じる彼を見て育った世代にはなおさらだ。結果的に、映画史上最も優れた教訓作品と言えるかもしれない。ネタばれになるが、2016年には「まさかこんなことが?」が現実になった。―J.D. 9位『ボブ★ロバーツ』(1992年) 風刺の効いたドキュメンタリー・タッチの作品は、ドナルド・トランプ氏の政治キャリアとオリバー・アンソニーの音楽を予見したと言っていいだろう。ティム・ロビンスが脚本・監督・主演を務めた『ボブ★ロバーツ』の主人公は、あけすけな右派の叫びを民衆の歌に変え、ペンシルベニア州上院議員選挙に立候補した大富豪。人の心を操ることに長け、あらゆる手を使ってでも勝ちに行く。どこかで聞いたことがあるような……? 2016年にトランプ氏が当選した後、ティム・ロビンスも「『ボブ★ロバーツ』が現実のものになった」と認めた。トランプ氏が集会で銃撃されて耳を負傷した際には、自身の監督作と現実が比較されるのを嫌った。だがこれほど痛烈に未来を予見した映画なら、頭に思い浮かぶのも当然だ。―A.P. 8位『リンカーン』(2012年) アブラハム・リンカーンの壮大な人生を1本の映画に凝縮するのは、どう頑張っても無理な話だ。それゆえスティーヴン・スピルバーグ監督と脚本家のトニー・クシュナーは、賢明にも1865年1月の出来事に焦点を絞った。ダニエル・デイ=ルイス演じるリンカーンが連邦下院議会で憲法修正第13条の可決に奔走し、後のアメリカ奴隷制度廃止へとつづく極めて重要な時期だ。正直者エイブと仲間たちは袖の下を渡したり、丸め込んだりしなければならなかった。映画で赤裸々に描かれるアメリカの政治慣習は、160年前も今も全く変わらない。ヘンリー・フォンダには申し訳ないが、ダニエル・デイ=ルイスはハリウッド史上最高のリンカーンだ。―A.G. 7位『26世紀青年』(2006年) 2006年に公開された直後の数年間、マイク・ジャッジ監督のこの映画は即座に荒唐無稽なブラックコメディと蹴された。とくにおつむの足りない元プロレスラー、ドウェイン・エリゾンド・マウンテンデュー・ハーバード・カマチョがアメリカ大統領になるくだりはバカバカしいにもほどがある。だが映画公開からわずか10年後、栄えあるWWEの殿堂入りを果たしたドナルド・トランプ氏が大統領に就任すると、ハリウッド史上もっとも先見の明のある映画のリストに加わった。映画の中盤、カマチョ大統領は「クソと言ってはいけないのは分かっているが」と議会で演説する。「空腹、砂嵐、フライドポテトとブリトーの包装紙不足。だが私には解決策がある」 幸運にも、第1次トランプ政権時代はフライドポテトやブリトーの包装紙には十分備蓄があったが、時代が変わればそこまで運に恵まれるとは限らないかもしれない。―A.G. 6位『ウワサの真相/ワグ・ザ・ドッグ』(1997年) ロバート・デ・ニーロ演じる情報操作の達人が、ダスティン・ホフマン演じるハリウッドに助けを求める。大統領選挙の投票日まで11日と迫る中、アメリカ合衆国大統領がホワイトハウス執務室でガールスカウトの少女に迫ったというニュースから世間の目を逸らすべく、ニュース性のある国際危機をでっち上げてほしいというのだ。1997年12月の公開当時、この筋書きは突拍子もないものに思えた――少なくとも1か月後に、当時のビル・クリントン大統領がホワイトハウスのインターンと情事に及んだニュースが舞い込むまでは(クリントン政権は後にスーダンの製薬工場を爆撃し、映画の「ワグ・ザ・ドッグ(マスコミを手玉に取ること)」と同じことをしたと非難された)。ホフマン演じるスタンリー・モッツは任務に全力を注ぎ、キルスティン・ダンスト演じる純情少女をクロマキーの前でスナック菓子の袋を持たせ、村を焼かれた難民を演じさせるなど(スナック菓子はポスト・プロダクションで子猫に差し替えられることになっていた)、様々な知恵を絞り出した。当然モッツは、数百万人をだまして大統領再選をお膳立てした苦労を公の場で認められたいという思いを募らせ、最終的に嫌気がさす(この時モッツは、アカデミー賞にプロデューサー部門がないことに文句を言う――明らかに最優秀作品賞だけでは物足りないようだ!)。あれから数十年が経ち、ワシントンDCの政治を操る人々と、彼らに影響される愚かな大衆の両方を皮肉ったこの映画は今も輝きを失わないばかりか、かつてないほど信憑性を増している。―Tessa Stuart