歴代政治映画ベスト20ー米政治制度を描いた指折りコメディ&スリラー傑作選
米・大統領選挙が間近に迫っているのは皆さんご存じだろう。実際のところ、今後の政治の在り方について国民の審判を問う最重要選挙になるだろう。11月5日の投票日まで残りわずかとなった今、判断の決め手を探している、または現実逃避を考えているのが現実かもしれない。この難問の答えを探すのに、アメリカ政治をテーマにした映画ほどうってつけなものはない。 【画像】歴代政治映画ベスト1の作品 これまで映画製作者は建国の歴史を題材に、「人民による、人民のための」というアメリカならではの――少なくとも文面上は――統治体制から、国民に寄り沿い、国民を第一とする理想のアメリカ像が築かれてきた過程を描いてきた。だがそうした作品はウォーターゲイトが単なるホテル名でなくなる以前から、アメリカの民主主義が概念としては立派だが、いざ実行するとなると欠点だらけな点にも鋭いまなざしを向けてきた。以下アメリカ政治の光と闇、醜悪極まりない側面を掘り下げた20本の映画を厳選した。 20位:『ブルワース』(1998年) 生まれたクリントン政権の「三角測量作戦」(訳注:保守派とリベラル派の中道をとったクリントン大統領の政策スタイル)は、まさしく人種を利用した醜い政治の産物だ。これを痛烈に批判した『ブルワース』は最初から最後まで、偏執的な浮かれ騒ぎを皮肉たっぷりに、面白おかしく描いた作品だ。共同脚本に名を連ね、監督も兼任したウォーレン・ベティが演じるのは、汚職にまみれたカリフォルニア選出の民主党上院議員ジェイ・ブルワース。痛い目に遭ったあと、保険業界の入札談合と引き換えにロビィストから1000万ドルの生命保険契約を取り付け、殺し屋を雇って自分の命を狙わせる。次第に我を失っていくブルワースは、無様なラップを披露したり九死に一生を得たりする一方で、アメリカ政界と企業癒着の実態を次々暴露し始める。完璧とは言えないが、野心的な作品だ。―Andrew Perez 19位『名誉ある撤退~ニクソンの夜~』(1984年) この1人芝居は、初上演の際に「リチャード・M・ニクソンの最後の証言」というサブタイトルが付けられていた。だがロバート・アルトマン監督が鋭くメスを入れた映画版では、第37代大統領は90分の独白でさんざん悪態を垂れ、本音を吐き出す。時は1970年代、場所はトリッキー・ディックことことニクソンの書斎というシンプルな設定で、ニクソンが怒りと自己憐憫に我を忘れ、酒におぼれながら、頭に巣食う悪魔と格闘する一夜が描かれる。当時フィリップ・ベイカー・ホールはどちらかというと無名の役者だったが、完璧な配役だった。ニクソンと瓜二つではないものの、あの男の煮えたぎる侮蔑と病的な不安を上手くとらえ、かねてから取りつかれていた見えない敵にぶっきらぼうな言葉を浴びせ続ける。アメリカ史上もっとも不名誉な大統領を違った角度から描いたフィクション映画『名誉ある撤退』は、余計なものをそぎ落とした閉塞的な設定で、モンスターに人間味を与えることを徹底的に拒んでいる。むしろしぶしぶながらも、最後までニクソンに好き放題言わせている。物悲しいラストシーンでは、「くそくらえ!」という最後の怒りのほとばしりが闇の彼方へとこだまする。―Tim Grierson 18位『パーフェクト・カップル』(1998年) 今なおクリントン時代を懐かしむ人々は、複雑かつ含蓄のあるこの映画をあらためてご覧あれ。ジョン・トラボルタ演じるのは、どこかクリントン氏を彷彿とさせるジャック・スタントン。密かに問題を抱える南部の州知事は、来る大統領選に立候補中だ。たしかに魅力的でハンサムだが、同時にとんでもないおべっか使いで、ほぼ間違いなく妻のスーザン(エマ・トンプソンが小気味よく演じている)に隠れて浮気している。1992年大統領選挙を題材にしたジョー・クライン氏のフィクション小説を映画化した『パーフェクト・カップル』は、忘れ去られた20世紀後半の政情を活き活きとらえたタイムカプセルだ。その後ジョージ・W・ブッシュや9/11同時多発テロ事件、イラク戦争、ドナルド・トランプ氏の登場で、政治の話題はすっかり粗野になってしまった。今と比べれば、クリントン氏の不品行などかわいいものだ。マイケル・ニコルスが監督し、長年タッグを組んだエレイン・メイが脚本を手がけた辛辣な作品は、クリントン時代の二面性とシニシズムを遠慮なく描いている。悲しいかな、クリントン氏の退任以降、そうしたアメリカ政治の側面は悪化の一途をたどるばかりだ。―T.G. 17位『ミルク』(2008年) カリフォルニア州サンフランシスコ市議会に立候補し、ゲイの男性として初めて選挙で選ばれた公職者ハーヴェイ・ミルク氏の半生を描いたガス・ヴァン・サント監督の伝記映画は、オスカー俳優ショーン・ペンの不気味なほど迫真に迫る演技が一番の見どころだ。だが作品自体はそれ以上に奥が深い。万が一暗殺された場合に流してほしいと市議会議員が事前に録音した音声で幕を開け、映画全体に殺害計画の陰謀が影を落とす。やがて別の市議会議員ダン・ホワイト氏(ジョシュ・ブローリンが抑えきれない葛藤を熱演)が悲劇の黒幕であることが判明する。ヴァン・サント監督はミルク氏の生涯を相反する2つの側面から描いた。圧倒的な人柄で当選した時の高揚感、そして目標達成の直後に訪れる恐怖だ。―Esther Zuckerman 16位『キルスティン・ダンストの大統領に気をつけろ!』(1999年) ジャーナリストはみな『大統領の陰謀』が大好きだ――現職大統領の首根っこを押さえる特ダネをつかみたいと思わないジャーナリストなどいるだろうか? 『キルスティン・ダンストの大統領に気を付けろ!』は、仮にウォーターゲイト事件が地道な取材や金の出所を追ったために暴かれたのではなく、もっと破廉恥なゴシップだったとしたら?と問いかける。キルスティン・ダンストとミシェル・ウイリアムズが演じる女子高生は、ゆく先々でトラブルに遭遇し、「ディープ・スロート」という偽名でボブ・ウッドワードとカール・バーンスタインの重要な情報源を務めることになる。パロディの傑作であると同時に、あまり深刻に考えすぎてはいけないというメディア関係者への教訓話でもある。―A.P.