「それでも私はマスクしません」ピーチ機運航妨害に問われた被告が言いたかったこと 着用拒否は差別か我欲か、法廷は異例の“厳戒態勢”
マスクについて、これまでの被告の主張と矛盾する証拠も突き付けられた。飲食店では騒動を起こしたことを認めて示談しようとしたこと、また呼吸器疾患を裏付ける診断書が証拠として提出されていないこと、保釈の際にマスクを着用する誓約書が提出されていること、などだ。これらの指摘にも被告は「お答えしません」と黙秘に徹した。 10月26日、論告に立った検察官は「一連の事件はマスク不着用に名を借りた、気に入らない他人からの要請には一切応じない『我欲』が引き起こした」と声を張り上げた。「日本各地で乱暴狼藉に及んだ被告が、社会の善良な人たちに再び被害を与えるのは必至」と懲役4年を求刑し、実刑の必要性を強く訴えた。 対する弁護人は、一連の事件ではマスクをしていなかったからこそ一方的に悪者に仕立て上げられたと訴えた。「(被告は)口は立つが暴力的な人ではない。根底にあるのは異質な物に対する日本社会の不寛容だ」と結んだ。
双方の主張が終わり、裁判長から「最後に言いたいことは」と問われた被告は、A4の紙を掲げ「ここに1枚の絵があります」と話し始めた。取り出したのは「ルビンのつぼ」と呼ばれるだまし絵。「つぼだと聞かされて見ればつぼに見え、向き合った2人の顔だと言われればそう見える。色眼鏡で人々が物を見てマスクを強制することがさまざまな軋轢(あつれき)を生んできました」 立ち上がったまま裁判官席や検察官席、時には後ろを振り返り、「コロナ禍でマスクはマナーやモラルに高められた」「マスクをしていない人の近くにいるだけで何らかの害にさらされるよう感じるのは過剰と言わざるを得ない」と語りかける。約30分の独白を「私は無罪です。飛行機でマスク着用に応じなかったことを誇りに思っています」と締めくくった。 裁判長は表情を変えず、公判の終結を告げた。最後までアクリル板が外されることはなかった。 ▽「乗客に謝罪の気持ちは」問いかけに…