代表取締役の住所一部非公開 融資を受ける際に支障も 非公開は埼玉県内25・6% 埼玉経済ウオッチ
10月1日に商業登記規則等の一部が改正され、株式会社の代表取締役の住所の一部非公開を選択できるようになった。これまで会社法では代表者住所を登記する必要があり、登記事項証明書等を取得することにより、誰でも代表取締役の住所を確認することができたが、この住所公開の制度が起業の躊躇(ちゅうちょ)、ストーカーや過剰な営業行為につながると危惧されていた。今回の改正では、選択すれば住所は区や市町村の行政区画までの表示となり、番地などを非表示にすることができるようになった。代表者のプライバシー保護が図られ、安心して起業ができることからビジネスの新規参入が増える効果も期待できる一方で、住所を非公開にすることの影響も考慮する必要がありそうだ。 東京商工リサーチが埼玉県内企業に実施したアンケートでは、すでに非公開の申請済みや1年以内に非公開を選択するとした企業は25・6%(164社中、42社)だったのに対し、非公開にしないと回答した企業は18・9%(31社)と非公開を検討している企業が多いことがわかった。ただし、未検討や改正そのものを知らないなど「わからない」と回答した企業が55・5%(91社)と半数以上を占め、長年にわたって当たり前とされてきた制度だけに改正を知らない人も多いようだ。 「非公開を選択しない」と回答した企業の理由では、「取引先の与信判断の硬化や金融機関の融資姿勢の硬化が懸念されるため」、「商取引で取引先への提出書類の増加が見込まれるため」と回答した企業もあり、非公開にすることで与信低下を心配する企業が一定数いることもわかった。事実、取引先の代表者住所が非公開となった場合に、その取引先の与信判断を「マイナス」にすると回答した企業も存在している。 また、法務省では「会社代表者の住所を証明することができなくなるため、金融機関から融資を受ける際や取引の際に支障が生じる可能性がある」と注意を呼びかけており、非公開に当たっては慎重かつ十分な検討を要請している。 代表者の住所から資産や負債の状況、差押の有無、破産歴などを確認することができる。特に中小企業は代表者の資産背景や経歴が会社の経営に影響を与えるだけに、こうした情報が確認できなければ、信用供与が限定されることも想定され、必ずしもメリットだけではない点を考慮して非公開を検討する必要がある。(佐々木博司・東京商工リサーチ埼玉支店長)