「1日3食ここのカレーでいい」ほど好きな20年来の常連が店を継ぐ メーヤウ復活への道のり
東京・高田馬場駅や早稲田駅周辺には、早稲田大学をはじめとした大学・専門学生たちに長年愛された名店がいくつもあります。それらは「ワセメシ」と呼ばれ、安い・多い・美味いの三拍子が揃ったメニューで学生たちのお腹を満たし、憩いの場となり、多くの人々の思い出がつまった特別な場所であり続けてきました。 近年、そうしたお店が次々と閉店しています。早稲田大学文学部キャンパスの隣にあったエスニックカリー店「メーヤウ」もそのひとつ。1997年の開業から学生たちに愛されてきた「ワセメシ」の代表は、2017年に突然、閉店することになってしまいました。
しかし、突然の閉店にファンが立ち上がります。元スタッフや常連客が協力して復活プロジェクトを立ち上げ、紆余曲折を経た2020年7月。「メーヤウ」は、場所を新たにリニューアルオープンすることになりました(東京メトロ副都心線「西早稲田駅」すぐそば)。 新たに店長に就任したのは、先代の店長ではなく、中東研究者の高岡豊(たかおか・ゆたか)さん。
高岡さんは、シリアやレバノンなど中東地域の専門家。1998年に早稲田大学を卒業後、上智大学で博士号を取得(地域研究)。2014年からは公益財団法人中東調査研究会の研究員になり、主席研究員も務められました。主な著書に『現代シリアの部族と政治・社会:ユーフラテス河沿岸地域・ジャジーラ地域の部族の政治・社会的役割分析』(三元社)『「イスラーム国」の生態がわかる45のキーワード』(明石書店)『「アラブの春」以後のイスラーム主義運動』(ミネルヴァ書房)などがあります。
なぜ、中東研究者がカリー店の店長になったのでしょうか? その理由を高岡さんに聞きました。
「激辛カリーをおごられる」という大学生活の洗礼
──まずは、高岡さんとメーヤウとの出会いから聞かせてください。 高岡:大学時代にサークルの先輩に連れて行ってもらったことがきっかけです。当時早稲田大学に通っていた方はご存知だと思いますが、大学生活の洗礼として、先輩が後輩に辛いカリーをおごるという一種の通過儀礼があったんです。 珍しい料理が世の中にあまりなかった時代に、新潟から出てきた私はまんまとその洗礼を受けさせられたわけです。同級生もみな同じ洗礼を受けていたので「じゃあまた行ってみようか」となり、それを繰り返しているうちにすっかりハマり込んでしまいました。 ──初めて食べた時はどう感じましたか? 高岡:いや、辛かったですよ! もちろん完食はしましたが、すごい苦労しながら食べました。その時分ではまだ辛いものが好きという意識はありませんでしたね。90年代のはじめ頃は「海外旅行をしたら、オリーブオイルでお腹を壊した」なんて話をしている人が多かった時代です。ナタデココやティラミスの時代ですね。東京都心ならともかく、私の地元、新潟県のような地方では、個性的な料理は珍しかったんです。 今でこそスーパーに行けばいろんな種類のタイカレーをレトルトで手に入れることができますが、当時そんなものはほぼ見かけなかった。そういう環境での出会いでした。 ──「スパイス」なんて一般的ではなかった頃ですよね。辛いものに慣れていないと最初は大変そうです。 高岡:水を飲んではいけない、と実感しました。辛いものを食べている時に水を飲むなんて、海で遭難した時に海水を飲むようなものです。 ──誰かと一緒に行くことが多かったんですか。 高岡:初期にはやはり同級生と行くことが多かったですね。だんだん1人で行くことが増えてきて、毎週通うのが習慣になりました。もちろん後輩ができてからは私がカリーをおごって洗礼を浴びせる側に回りました。初めての人にチキンカリーをおごるのは、社会人になってからも大好きでした。