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トミー・ジョン手術って? 計191針の縫い目…3度受けた楽天・館山コーチに聞く

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中日スポーツ

 読者の質問に答える企画、今回は通称「トミー・ジョン手術」について。「どんなもの? 復帰までどのくらいかかる?」。昨年ヤクルトで現役を引退し、現在は楽天で2軍投手コーチを務める館山昌平さん(39)は、その手術を3度も受けた。じっくり話を聞いた。 【写真】館山コーチがメスを入れた部位  また、縫い目が増えていた。計191針。昨秋の引退試合、館山から「5日後に10度目の手術を受けます」と衝撃の告白を受けた。その時すでに縫い跡は175針。  引退後にまで手術した理由は「9度の手術で、肘の中がどうなっているのか知りたいし、医学の役に立てれば」。術後に動画や画像を見せてもらった。  「焼き肉で言うと、メスの入っていない体が精肉とすれば、ユッケのよう。表面はきれいでも、中はびっくりするくらいぐちゃぐちゃだった。骨にも穴がたくさん開いているし、他の組織と癒着している部分もある」  内側側副靱帯(ないそくそくふくじんたい)再建術は1974年、米国のフランク・ジョーブ博士が考案した。損傷した靱帯を切り取り、体の別の部位から切り出した正常な靱帯を移植する。最初に手術を受けたメジャーリーガーの名を取って「トミー・ジョン手術」とも言う。日米のプロ1000人以上が受け、高確率で復帰。今は中高生で受ける人もいる。  館山は1度目は右手首、2度目は右脚内もも、3度目は左手首から腱(けん)を右肘に移植している。複数回受けた選手も珍しくはないが、3度となると中日でもリリーフとして活躍した大塚晶則(現中日渉外担当)と館山くらいだ。  故障の理由、そして治療過程も個人差が非常に大きいという。  「肘の靱帯損傷は、投げ過ぎれば誰もがなる勤続疲労とはちょっと違う。体の構造や投げ方による部分が大きく、靱帯に負担がかかる投げ方でなければ、どれだけ投げても大丈夫な人がいる反面、キャッチボールの延長程度の強度でも靭帯を痛めてしまう場合もある。逆に靱帯が無事でも、関節の可動域が十分でなければ、ストレスのたまる部位の疲労骨折を繰り返す人もいる」  館山は子どもの頃から関節がゆるく、長距離走で肩が痛くなったり、ストレッチで亜脱臼したこともあったという。肘関節は180度以上に開いてしまう「猿腕」。関節の可動域の広さは腕のしなりとなって投球には有効だったが、靱帯には大きなストレスを与えていた。  「トミー・ジョン手術をすれば球速が上がる」という俗説は、誤解だときっぱり否定する。これはスポーツドクターも同意見。球速が上がったとしても、痛みがなくなったこと、リハビリ期間のトレーニング、効率の良いフォームへの改良などの効果であって、靱帯を痛めていない人が手術しても球速が上がることはあり得ないという。  館山も自己最速は手術前の2003年にマークした154キロ。04年に手術し、その後の最速は09年の153キロだった。08年から5年連続2桁勝利、09年は最多勝を獲得。手術後にヤクルトの右のエースとして君臨したことは「06、07年は中継ぎ、抑えとして約90試合投げたことで成長できた。その経験がその後の成績につながった。手術は確かに野球を続けるチャンスをくれたけど、成績は自分で勝ち取った物」と胸を張る。  ひとくちに再建術と言っても術式はさまざま。  「僕は骨に穴を開けて、移植する腱を他の部位からの骨を移植して固定した。他にチタンを埋め込むなど術式もさまざまで、復帰にかかる時間もかなり違う」  実戦復帰までは術式や選手の年齢、体質などで大きく変わるというが、目安は「約5週間ギプス固定。外してから3カ月半から4カ月でキャッチボール再開。1年から1年半で実戦復帰」。焦りは禁物。リハビリは想像以上に地道だ。  「タマネギの薄皮をはがすイメージ。ちぎれないように一枚一枚丁寧に。焦ってピッてやるとすぐに切れちゃう。『一歩進まず半歩遅れず』という言葉を聞いたが、その通りだと思う。焦れば焦るほどゴールは遠くなる。1軍でローテで回っていてもしばらくはリハビリも怖さも続く」  気の遠くなるような時間と神経を使う。それでも多くの選手生命を救ってきた手術だ。「ふと『あ、忘れてた』って瞬間が来る。僕の場合は2年くらいたった頃。肘をかばわず打者と純粋に勝負していたのに気づいた」。復帰後に活躍した大投手も多いことや、一緒にリハビリした仲間の実戦に復帰する姿が、つらいリハビリを乗り越える支えになる。(敬称略)  ▼トミー・ジョン 1943年生まれ、左投げ右打ちの元大リーグ投手。ドジャース時代の74年7月に左肘靱帯を断裂し、ジョーブ博士考案の側副靱帯再建術を初めて受け、76年4月にメジャー復帰。その後14年間現役を続け、通算288勝のうち164勝を術後に挙げた。  ▼肘の側副靱帯 肘関節の内側と外側両方にある。上腕骨と尺骨を連結し、関節が横方向にぶれないようにしている。  ▼トミー・ジョン手術を受けた主な選手 日本での先駆けはロッテの村田兆治だ。1983年に渡米し、ジョーブ博士の執刀で復帰。その後7年間で59勝を挙げた。現役では館山と2009年に最多勝を分け合った中日の吉見、西武の松坂ら複数おり、今年に入って既に中日の田島、DeNAの東、巨人の堀田と3投手が受けている。メジャーではカブスのダルビッシュ、エンゼルスの大谷も受けている。  ▼マーらが選択、メス入れないPRP療法も  肘故障の治療法にはトミー・ジョン手術とは別にPRP療法もある。PRPとは多血小板血漿(けっしょう)の略。自身の血液から取り出した、血小板を高濃度に含んだ血液を患部に注射し、自然治癒力を高めて治す保存療法だ。  田中将大がヤンキースに移籍した2014年、右肘内側側副靱帯の部分断裂で故障者リスト入りした時に選択。2カ月半で1軍戦に復帰し、その後も毎年20試合以上先発している。メスを入れず、復帰までの時間が短い反面、効果の出方に個人差が大きい側面もある。大谷は最初にPRP療法を行ったが、結局4カ月後にはトミー・ジョン手術を受けた。

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