呉服店からデパートへ 歴史が教える“今、実店舗と販売員に求められること”
百貨店は女性の社会進出も後押しした
個人的に興味深く読んだのは、“サービス”を切り口にした章だ。約20年間、販売員を取材してきた者として、時代ごとの接客や働き方、モノを売るための工夫を知ることができ、販売員のあり方について、いっそう考えを深めることができた。
呉服店時代は“丁稚(でっち)”と呼ばれる奉公人たちが客の相手をしていた。丁稚は13~14歳の男性で、店のあらゆる部門に配置され、雑用をこなしていた。5~10年かけて昇進する者もあったが、ほんのひと握りだった。
明治・大正時代になり呉服店が百貨店に進化するのと共に、女性販売員が登場する。初めは女性の雇用に対してどう対応すればいいか迷いがあったそうだが、10年ほどで女性販売員は百貨店に欠かせない存在となり、やがて誰もがうらやむ花形職業になった。店頭における女性販売員の丁寧な接客・応対が評価され、仕事をしながら行儀・作法が身につくと花嫁修業先としても認知されるように。百貨店で働く女性を、自分の息子と結婚させようとする母親もいたとか。大正から昭和初期にかけては女性の社会進出がさらに進み、働く女性は“職業婦人”と呼ばれるようになり、女性販売員が増えていった。
百貨店よ、賢者たれ!
かつて百貨店は全国から“良い品”を集めて、客にそれを紹介し、買ってもらっていた。良い品がどう作られ、どう扱い、どう愛でるべきかも教えていた。時代の流れと共にその関係が崩れ、“販売員に声をかけられたくない”という客が増えた。同時にインターネットの普及により、誰でも(ある程度の)商品情報やファッション知識を得られるようになった。販売員を介さずにモノを買うことが当たり前になった。
しかし、モノ作りに込められたストーリーの伝達や、服を長く大事に着るためのさまざまな啓蒙は、販売員が担う仕事なはず、と本書を読んで強く感じた。
百貨店は窮地に立たされている。しかし、ここで歴史に学び、賢者となってほしい。