「いいリーダー」はオンライン飲み会なんてやらない
(吉田 典史:ジャーナリスト) 創業から3年11カ月でマザーズ上場。しかも、外部からCFO(最高財務責任者)を招くことなく、コンサルティング会社の支援を受けることもない。上場経験者は社内に1人もいない。プロパー社員だけでの上場。 これを成し遂げたのが、株式会社識学(しきがく)代表取締役社長の安藤広大(あんどう・こうだい)氏だ。「識学」は、組織の中の誤解や錯覚がどのようにして発生し、どうすれば解決するのか、その方法を明らかにした学問だ。今、静かに注目を浴びる組織論でもある。 安藤氏はジェイコム(現ライク)で取締役営業副本部長などを歴任していたが、2013年に「識学」に出会い、強い感銘を受け、独立。識学の講師として、数々のクライアント企業の業績向上に貢献する。2015年に株式会社識学を設立。「識学」を使った経営、組織コンサルティングや社員研修を行う。現在までの導入実績は2021年1月現在、2000社を超える。2019年にマザーズに上場した。 安藤氏はコロナウイルス感染拡大のもと、在宅勤務をはじめとしたテレワークが浸透すると、上司と部下の関係のあり方が大きく変わることを、著書『リーダーの仮面―「いちプレーヤー」から「マネジャー」に頭を切り替える思考法』(ダイヤモンド社)でいち早く指摘した。緊急事態宣言を受け、多くの企業が在宅勤務をする中、改めてその真意を聞くことで「コロナ時代の部下育成方法」を考えたい。 ■ 職場に信頼関係なんて全く必要ない 吉田 今後、上司と部下の関係はどのようになっていくと思われますか? 安藤 上司として部下に求める成果の中身がより明確になります。成果だけで部下を評価、育成し、部署や会社を運営していくことが一層強く求められるのです。
これまでも成果主義を導入する会社はありましたが、評価項目に社員の働く姿を入れるケースが多くありました。「働く姿」とは、例えば「上司への報告の仕方が上手い」などです。これは本来の成果主義とはかけ離れたものだ、と私は考えています。評価するべきは、会社の業績につながる成果だけであるべきです。このあたりの認識がある意味でごまかされていたのです。 テレワークが増えると、上司と部下が向かい合う「対面のコミュニケーション」が少なくなります。より無駄のないコミュニケーションや組織の運営をしていく必要があります。効率よく動かすということは、最小のコミュニケーション量で動かすことを意味します。コミュニケーション量が最小の状態で、社員全員が会社の業績向上に貢献できる仕組みを作っていく。これが、無駄のない組織運営と言えます。 日本企業では上司と部下が「情報共有」と称して、不必要なものまで共有してきました。職場に人間的な信頼関係なんて全く必要ありません。このような会社の大きな問題は、社員が互いに「人」としてつながろうとしていることでした。それぞれの社員がきちんとした仕事をして、まずは機能する。その結果として信頼関係ができるならば好ましいでしょう。機能的に結びつくことなく、「価値観の共有」をする試みならば必要ないのです。 吉田 人としてのつながりを維持するために、オンライン飲み会をするケースが増えていますね。ご自身が経営する会社でこのような飲み会をしていますか? 安藤 するわけないですよ・・・。上司と部下は、友だちではないのです。多くの場合、そのような飲み会で気持ちがいいのは上司だけだと私は思います。上司の方には「あなたの寂しさを紛らわすために、部下の貴重な時間を奪っていませんか?」とお聞きしたいくらいです。 ■ 上司は怖い存在でなければならない 吉田 著書『リーダーの仮面』に、「360度評価はいらない」と書かれていますね。テレワークが浸透すると、360度評価が難しくなるものでしょうか。 安藤 ええ、もちろんです。そもそも、そのような評価は不要なのです。部下が上司を評価するなんてありえない。責任を取れない人がなぜ、評価をするのでしょうか・・・。部下には、評価をする判断能力はありません。例えば、小学生の時にとても厳しくて、腹が立った先生がいたとします。大人になってから、その先生に感謝することがあるかと思います。これと同じことが、親との関係にも言えます。これが、本来の上司と部下との関係なのです。