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ニューヨークでコロナ陽性率再上昇――この街はもう、あの頃には戻れない(大江千里コラム)

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ニューズウィーク日本版

<ニューヨーク市では9月29日、コロナ検査の陽性率がこれまでの1~2%から3.25%に上昇。第二波の到来が懸念されるなか、大江千里氏が実践する、見ず知らずの人と触れ合わず、いたい人とだけいる時間の作り方とは――>

日本では「都道府県をまたぐ移動自粛」の是非が話題になるようだが、僕が住むニューヨーク州は、感染が拡大している地域から州内への移動者に対して14日間の隔離を要請している。ニューヨークに住む人が対象州に移動して戻ってきた場合も同じ。 つまり州をまたぐ移動は何かと面倒なので、ニューノーマルな暮らしの一環として、ニューヨーク州の自然の中に家を借りて気分転換することを実験的に始めてみた。 今回3泊するメンバーは、僕とマネージャー、彼女の息子フィルとガールフレンドのローラの4人。ニューヨークといえば摩天楼のイメージが強いが、一歩マンハッタンの外へ出るとワイルドな自然がふんだんにある。 僕たちが滞在するのは州中部にある標高1000メートルを超えるキャッツキル山地。ニューヨークの金持ちが別荘を持つ避暑地でもある。そんなオーナーの1人から一軒の山荘を借りて車を交代で運転し、3時間弱のドライブで到着した。 「センリ、マスクは必要ないよ。僕たちは今日のために3日前にPCR検査を受けて陰性だったからね」とフィル。シャンパンを開けて乾杯したら、それぞれがソファやデッキで持ってきた仕事にいそしみ始めた。 「BBQは4時スタート」! みな時間ぴったりに仕事を投げ出して準備に取り掛かる。ステーキ、ソーセージ、魚、野菜、ハンバーガー、ホットドッグ。僕は内心「この量を3日で食べ切れるのかな?」と不安だったが、空気の澄んだ屋外での食事に食欲は全開に。この1回のBBQで全ての食材がなくなった。 一番近いスーパーまで車で1時間。満腹になったおなかをさすりながら、さっそく翌日の買い出し計画を練る。ニューヨーク市内ではちょっとした外出にも緊張感が伴うが、自分たち以外誰もいない場所はいい。 フィルとローラは翌日射撃に出掛けたが、マネージャーはパソコンで仕事。僕は愛犬「ぴ」と雨の降る窓の外を眺め、ベッドで一日ゆっくり過ごす。夕方散歩に出ると、森の中で鹿を見た。向こうも一瞬びっくりしていたが、尻尾を振って出迎えてくれた。 <PCR検査はマックで買い物するような感覚> 新型コロナウイルスのエピセンターとなったニューヨークではリモートワークが浸透し、これからはもう、大勢の人がひと所に集まるという設定は仕事でもプライベートでもなくなるだろう。僕の歌詞にあったような「群衆の中で」人波に流されていく場面などもうイメージできないほど、世の中はガラリと変わるのかもしれない。 だけど、最小限の接触とリーズナブルな防衛手段で、今までにないような新しい文明が生まれることもあり得る。見ず知らずの人と一切触れ合うことなく、いたい人とだけいる時間のつくり方。 おまけにPCR検査は、ニューヨークじゃ何度やってもタダ。マックで買い物するように気軽に受けられるから、これをパスポートにネクストステージの生活様式の振れ幅をいろいろ模索するのも「あり」だなと思った。 短いステイを終えて山荘を去るときにふと振り返ると、今までの全てに後戻りのできない「未来」へ向かうのだなと、去り難い気持ちと相まって胸がキュンとした。 <2020年9月22日号掲載>

大江千里(NY在住ジャズピアニスト)

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