子どもの貧困率、問題は子育て世代全体の貧困化にある
貧困率上昇の原因には男性雇用の変化も
子どもの貧困率“上昇”の根本的な要因は、非正規雇用などの低所得層の拡大だと考えられます。しかも、女性よりも男性の雇用問題だと考えられらます。 例えば、男性の非正規職員の割合は2013年に21.2%(厚生労働省「労働力調査」)で、2002年の15%から約6%ポイント上昇、人数では約180万人増加しました。35~44歳でも同期間に5.6%から9.2%へと上昇しました。 非正規雇用が多いという点では、女性も置かれている状況は同じですが、男性雇用状況の変化も加わって子どもの貧困”率”が上昇しています。つまり、低所得(男性)、仕事なし(男性)、低所得(女性)、仕事なし(女性)の4つのパターンの掛け合わせです。この4つのすべてに対応する必要があります。 現在、人手不足で、6月の有効求人倍率(季節調整済み)は1.1倍と求人数が求職者数を上回る状況です。けれども大きく改善しているとはいえません。正社員の有効求人倍率は昨年より上昇したとはいえ0.68倍にとどまっているからです。人手不足でも安定的で高い所得の職はなかなか見つけられない状況です。 子育て世代の家計が直面しているリスクは、病気、会社の経営不振などで、夫が職を失ったときに次の職を見つけられないということです。低所得(男性)×仕事なし(女性)の組み合わせに変わることで、場合によっては突然貧困状態に陥る可能性があります。
家計がリスクを避けるための策は
しかし問題は、正社員を増やす策がないことです。背景に製造業や建設業の縮小があるからです。とくに減少が加速したここ15年のあいだに、製造業では150万人規模で男性の雇用が縮小したと思われます。新興国でも比較的高度な電気製品が製造されている時代に、かつての日本の産業・雇用構造がよみがえるとは考えられません。 (注:ここでは情報通信業を含まない製造業を考えていますが、統計の定義が途中で変更されているためおおよその値です。とくに2002年以前の統計には製造業に情報通信業が一部(新聞・出版)含まれています。そこでの男性就業者数は、1992年にピークの約960万人で、2002年までに約150万人減少しました。その後、2003年から2013年までに、情報通信業を含まない製造業は約30万人減少しました。) そのような中で、家計がリスクを避けるための策は、次の職を見つけやすくすることでしょう。すなわち、雇用の保護を強めるのではなくより自由な労働市場、あるいは失業なき労働移動です。保護が強ければ、保護されない人も増えてしまい、それが子どもの貧困率上昇の原因となるからです。男性の職が相対的に失われている中で、女性がよりよい環境で働ける整備も必要です。 アベノミクス第三の矢「女性が輝く日本へ」という政策方針はそのためにも必要です。女性の活躍は人手不足解消というだけではなく、両親ともに収入があれば、世帯における上のようなリスクを低下できます。また母子世帯の収入増加も求められます。 ただ、それだけではありません。ここまでくると日本経済は変化を余儀なくされます。輸入を中心にコストが高まる一方で、実質賃金は低下しています。企業にとっては労働コストが上昇しない中で、しかし資本コスト(金利など)は安いままです。これは石油ショック後の状況に似ています。自動車や電気製品の輸出が伸びたのは、その1980年代でした。現状では従来型の産業が伸びるとは考えにくく、(産業にかかわらず)個々人の活躍が必要です。このとき、女性の企業活動における役割も大きくなるはずです。 (文責/釣 雅雄・岡山大学経済学部准教授)