負債総額469億円で突然の「準自己破産」。船井電機の破産から学べる教訓とは
AV機器メーカー「船井電機」に何が起きているのか。同社は取締役の1人が東京地裁に「準自己破産」を申し立て、10月24日に破産手続きの開始が決定。従業員約2000人が解雇される事態となった。 船井電機は2021年、業績が低迷する中、出版社の秀和システムホールディングスにより買収、子会社化された。新社長は経営の多角化を図るべく脱毛サロン「ミュゼプラチナム」の買収に乗り出すが、同サロンは多額の広告費未払いがあり、船井電機の経営は悪化。 子会社後の3年間で、船井電機は約300億円ものの預貯金が流出。報道によると、負債総額は469億円にものぼるという。 ところが同社代表取締役会長だった原田義昭氏らが、破産手続きの決定取り消しを求めて東京高裁に即時抗告を申し立てていたことがわかった。 原田氏はFacebookで「『破産』の手続きは止め、それに代わるもの、『企業再生』への手続きを急がなければならない」とのメッセージを投稿している。破産申し立てについては事前に知らされていなかったとし、事業再生は可能だとして近く、民事再生法の適用を申請するという。 なお、東京商工リサーチ(TSR)によると、船井電機「破産開始」への対抗は、天文学的な成功率だとしている。 “TSRの調査によると、2019年1月~2024年10月までに破産開始決定が取り消されたケース(株式・有限・合同の会社形態)は5件しかない。この間の破産件数は3万2998件で、「破産取消率」は0.015%と天文学的な低さだ。” <参考>東京商工リサーチ(https://www.tsr-net.co.jp/data/detail/1199056_1527.html) ● 経営破綻に陥った企業が取るべき選択肢は4パターン そもそも、経営破綻に陥った際に、企業が取るべき選択肢は、大きく「再生型」と「清算型」の二つに分かれている。 <再生型> 会社を存続させつつ債務整理を実施することで、経営を再建させることを目的とした手続き 【1】民事再生…民事再生法に基づき債務者主導で実施される企業再生手続き 【2】会社更生…会社更生法に基づき裁判所が選任した更生管財人が主導する企業再生手続き(株式会社だけが対象) <清算型> 会社の清算を目的とする手続き 【3】破産…経済的に破綻した企業や個人(債務者)が、債務を弁済できない状態に陥った場合、裁判所が債務者の総財産を換価し債権者に公平に配分する手続き 【4】特別清算…債務超過の状態で解散した株式会社が、迅速かつ公正に清算するため、裁判所の監督のもとに行われる手続き 今回同社が申請した「準自己破産」は、上記の【3】に該当する。 では、「準自己破産」とはどのようなものだろうか。中釜和寿税理士に聞いた。 ●取締役間で意見が対立する際には「準自己破産」が有効な手段になりうることも ーー「準自己破産」とはどのようなものなのでしょうか。 「『準自己破産』とは、法人の役員などの申し立てにより行われる破産手続きです。 通常、法人については法人自身(=債務者)と法人の債権者が破産手続開始の申し立てをすることができますが、取締役、理事、清算人など一定の個人についても、『準自己破産』の申し立てを行うことが認められています。 上場企業など、取締役会設置会社である株式会社の場合、会社として破産申し立てを行うためには、取締役会決議を経る必要があります。しかし、破産については取締役間で意見が対立することもあります。 他の取締役の反対があった場合でも破産申し立てをすることが、ステークホルダー(株主や債権者など)の利益に適うと考えられるのであれば、取締役が単独で行う『準自己破産』は有効な手段になりうると考えられます。 『準自己破産』の申し立てに当たって、申請者は破産手続開始の原因となる事実の疎明(裁判官が、確信を持たなくても一応確からしいとの推測を抱いても良い状態のこと、もしくはそのような状態に達するように、当事者が証拠を提出すること)が求められます。支払不能や債務超過の事実などが確認された場合、裁判所は破産手続開始の決定を行います。」 ●民事再生手続が採られると、事業再建と再生計画案策定に向け活動が進められる ーー今回、破産開始決定が取り消される可能性は極めて低いようですが、もし仮に民事再生を適用していた場合、船井電気はどのようになっていたのでしょうか。 「仮に民事再生手続が採られた場合、事業の再建と再生計画案策定に向けた活動が進められることとなります。 具体的には、不採算事業からの撤退や支店や工場の一部閉鎖など、債務者の収益性改善のための施策を講じることになります。また、事業再生に向けては、資金力や信用力のあるスポンサーを見つけることも非常に重要です。 これらの活動を経て企業は再生計画案を策定し、裁判所へ提出することになります。再生計画案に対して、議決権を有する債権者が賛成若しくは反対の議決権を行使することで再生計画案は可決若しくは否決されることとなりますが、再生計画案が可決された場合には、企業は債権の弁済など、再生計画を履行しながら事業の再建を目指していくこととなります。」 ●重要な投資は、余剰資金を有し、コア事業が右肩上がりのタイミングで行うべき ーー企業が経営不振から破綻へと陥らないようにするために、今回のケースから学べる教訓があればお教えください。 「一般的に、企業が健全な財務状態を維持するためには、第一に『キャッシュフローを含む経営状態の把握』が必須です。損益計算書や貸借対照表を含む財務諸表の動きを適時に把握することで、経営が傾く兆候を早期に捉えることができます。 経営不振の兆候が見られた場合、企業の存続に向けた迅速な意思決定と行動が必要になると考えます。 意思決定が遅れることで再建の道はより一層困難なものとなっていきます。社内のリソースだけで解決できない場合には、専門家や金融機関を早期に巻き込み、企業とステークホルダーを守るための選択肢を確保するといいでしょう。 また、今回の例から学べることとして、事業多角化やM&Aには相応のリスクが常に伴うということです。重要な投資に対しては、余剰資金を有し、コアとなる事業が右肩上がりのタイミングで、経験値を積んでおくことが重要だと考えます。」 【取材協力税理士】 中釜 和寿(なかがま・かずひさ) 税理士・公認会計士 Big4と呼ばれる大手会計事務所のディレクターとしてグローバル本社への出向、日本のマネジメント・オフィス勤務などを経て、 2024年にアセンディア税理士法人及び中釜和寿公認会計士事務所を設立。 現在は数多くの法人・個人の税務顧問を担当するほか、グローバルに事業展開する日本企業や海外の大型スタートアップ等に対する専門サービスを提供している。法人・個人税務のほか、事業戦略策定やファイナンスに強みを持つ。 早稲田大学政治経済学部卒業、スタンフォード大学経営大学院LEADプログラム2025期生。 事務所名 :アセンディア税理士法人 事務所URL:https://asendia-tax.jp/
弁護士ドットコムニュース編集部