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Blu-ray&DVD発売を機に改めて考える!『家族を想うとき』が突きつける理不尽な社会への“NO”

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Movie Walker

英国の名匠ケン・ローチ監督が引退宣言を撤回して『家族を想うとき』のブルーレイ&DVDが彼の84歳の誕生日である6月17日(水)発売。市井の人々の生活を描きながら、社会や制度の問題を浮かび上がらせる秀作群で、世界の賞賛の声を集めてきたケン・ローチが、現代に生きる家族の苦境を見つめた一作だ。 【写真を見る】英国、ニューカッスルに住むターナー家 マイホームを購入するため、フリーランスの宅配便配達員となったリッキー・ターナー(ヒッチェン)と、介護の仕事をしながら彼を支える妻アビー(ハニーウッド)。忙しい両親に長男セブ(ストーン)と妹のライザ・ジェーン(プロクター)は寂しさを募らせていき、やがて予期せぬ事態を引き起こす。 親も子も互いを愛しているものの、仕事がその妨げになる。平凡な家族の姿から、ローチは人間性の介在する余地のない労働の現実に言及。多様化する“働き方”は、人々を幸福にしているのだろうか? ブルーレイ&DVD発売をきっかけに、一度は引退を宣言するも、それを撤回してまでローチが伝えたかったメッセージを読み解く。 ■ありふれた一家の姿を通して提起する現代イギリスの“働き方問題” 宅配ドライバーが陥るフランチャイズ契約の罠 「働けば働くほど稼げる」という触れ込みに惹かれ、フリーランスのドライバーとして宅配業者とフランチャイズ契約を結んだリッキー。だが、“フリー”とは名ばかりで厳しい雇用条件に縛られ、休む間もない。配達状況を管理する携帯スキャナーで現在地を把握され、どんな理由であれ欠勤するとペナルティを課せられる。駐車違反、荷物の盗難などのトラブルも自己責任だ。 自らの良心に縛られる介護福祉士の苦悩 夫リッキーの事業に必要な大型車の購入のため、自身の車を売った妻アビー。訪問介護の仕事をしている彼女は仕方なくバスを利用して担当の家々を回る。家族に見放された老人の急なSOSにも嫌とは言えず、夜中に出かけていくこともしばしば。もちろん時間外手当はない。長時間労働で帰りも遅くなり、子供たちと一緒の夕食の時間さえも奪われ疲労だけがたまっていく。 コミュニケーション不足ですれ違っていく家族 16歳のセブは絵の才能に恵まれているが、忙しいリッキーはそれに気付かず、学校へ行かないセブと度々衝突。やがてセブは家にも帰らず、喧嘩沙汰を起こすように。12歳のライザ・ジェーンも寂しさから元気を失くし、リッキーは少しでも一緒の時間をつくろうと彼女を配達に同行させる。ところがその行為が上司にバレると、リッキーの行動はさらに制限されてしまう。 ■声なき人々の声を代弁してきたケン・ローチ 社会システムに苦しめられる市井の人々を描く ローチが手掛ける作品の主人公はほとんどがごく普通に暮らす労働者や、移民といった社会的弱者。権力者が定めたルールに苦しめられ、それでも必死に踏ん張って生きている名もなき人々の姿を通して、非情な社会システムに批判を投げかける。 【シナリオ】綿密なリサーチによる現実味あふれる脚本 脚本のポール・ラヴァティは『カルラの歌』(96)以来20年以上にわたるローチの創作パートナー。リッキーがトイレに行く時間がないためペットボトルで用を足すなど、ドライバーから聞いた実話を随所に盛り込み、リアリティ十分に業界の裏側を描いている。 役者は基本的にアマチュアを起用 ローチが起用するキャストの多くは、演技経験のない素人。リッキー役のヒッチェンは20年以上も配管工として働いており、本作で初めて映画に出演。実際に労働者階級の生活を送る人たちの表情が、ローチ作品の重要なエッセンスなのだ。 文/相馬学

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