手術痕にやさしい低刺激 グンゼ「メディキュア」の肌着、医療現場の声も反映
連載《ブランド VIEWS》
肌着メーカーとして知られるグンゼは、手術後の肌トラブルにも対応可能なブランド「メディキュア」を展開する。高い縫製技術を生かし、縫い目をなくした完全無縫製の肌着も開発。オンラインショップでは部門別トップの売上高を誇るなど、評価が高まっている。
「生地の縫い目と手術痕がこすれて痛い」「腕が上げづらくなりブラジャーの着脱がしづらい」――。手術を受けた人にとって肌着に関する悩みは抱えやすい。グンゼが2017年にメディキュアブランドで発売した「前開きハーフトップ」はこのような問題を和らげるための商品だ。
■乳がん手術後や高齢の女性に好評
乳がんの手術では多くの場合、胸の下やわきの下などに手術痕が残ってしまう。「前開きハーフトップ」は完全無縫製ではないが、手術痕が残りやすい部分には縫い目がない製法を使用。こうすることで傷痕の刺激を防ぐことができる。 さらに「術後に腕を上げづらくなった」といった悩みにも対応。腕を大きく動かさず、前のボタンを開ければ下着が脱げるようにした。必要に応じて傷に当たる生地の部分を取り除くこともできる。生地を切り取ってもほつれにくい編み方を採用した。 加齢で腕を動かしづらくなった人にも好評だ。患者とコミュニケーションをとる看護師らの口コミもあり、売れ行きは好調だ。グンゼのオンラインショップでは、数あるブラジャーの商品の中でもトップクラスの売り上げを記録する。メディキュアブランドで9種類の商品を販売している。
■高い縫製技術を医療分野に活用
同社は1896年設立。当初は製糸業者だったが、肌着を始め製糸関連の技術を生かし、様々な領域へと事業を拡大してきた。1980年代後半からは手術用の縫合糸製造をきっかけに人工皮膚や骨の接合剤など医療分野にも進出。新規事業の検討にあたり、質が良いとの評判を得た衣料品の製造技術を医療分野にも生かすことになった。 こうして2016年に誕生したメディキュアの第1号商品が「低刺激インナー」だった。乾燥により肌が荒れたり湿疹が起きたりする人が抱える「縫い目と肌がこすれて荒れる」といった悩みに応えるため、同商品は完全無縫製なインナーシャツとして作られた。こすれても痛くなりづらいレーヨン混の生地を使っている。 その素材や切ってもほつれない特徴を知った看護師ら医療現場の人々から多くの要望が集まり、その後の商品開発につながった。グンゼQOL研究所の上島進室長は「患者と日常的に接する現場の医療関係者からは、私たちの想像以上にさまざまな要望が届く」と話す。低刺激インナー以外の商品はいずれも、現場の声がきっかけでできた商品だという。 現在メディキュアはオンラインストアや直営店などで販売。カタログを置く診療所もあるという。グンゼの技術を健康や医療のために生かす「QOL研究所」で、大学などの研究機関と連携し商品開発を進めている。上島室長は「商品開発を進め、これからも様々な困りごとの助けになりたい」と意気込んだ。 (川野耀佑)
メディキュア
グンゼが16年から販売する肌着ブランド。肌着の開発で培った完全無縫製などを生かし、患者の肌への刺激を和らげる商品を販売する。乳がんの手術を受けた人を対象にした「前開きハーフトップ」(3300円)、放射線治療を受けた人には「ネックカバー」(2200円)などがあり、現在は9種類の商品を展開している。 [日経MJ 2022年5月13日付]