金足農・吉田輝星で問題となった球児の球数問題を米国ではどう対処?
米国の高校野球では、投球過多による投手のケガを防ぐために、投球数制限と休養日規則が盛り込まれた。しかし、投球過多は故障のリスク要因のひとつであって、投球数制限だけで投手の故障が完全に予防できるわけではない。 トミー・ジョン手術と呼ばれる肘の側副靱帯再建手術の執刀医で知られるジェームス・アンドリュー医師らのグループが2012年に発表した研究結果によると、投球数の他に疲労した状態でのピッチング、投球フォームも故障を引き起こすリスク要因であるとしている。また、捕手と投手を兼任している選手は、故障のリスクが高まるとしている。 2018年には別の研究者グループが、試合中の投球だけでなく、ブルペンでの練習や試合前のウォームアップでの投球数を調べた結果が発表された。それによると、高校生投手が試合の日に投げた球数は、試合が全体の57.6%、ブルペンが22.7%、イニング間などのウォームアップが19.7%であることが分かった。試合のなかで投球数を制限するだけでなく、試合の日のウォームアップや、練習だけの日にどれくらいボールを投げているのかも、モニターするべきだと研究者たちは結んでいる。 また、これとは別の研究では、高校生投手はシーズンが始まって間もない時期に、肘や肩の痛みを訴える傾向があると発表された。シーズンに入る前に、コンディショニングやフォームの確認などの準備が十分にできていない可能性もある。 前述したように、米国の高校野球のフォーマットは日本とは違う。米国では、夏休みは高校野球部としての公式戦は組まれていない。州によって違いはあるが、学校野球部のシーズンは早春から六月中旬頃まで。それ以外は学校野球部という枠を離れて、民間のサマーリーグという別のチームでプレーする。 学校の野球部では、投球数制限をしていても、民間のサマーリーグの中には投球数制限や休養日規則を導入していないところもある。サマーリーグなど、学校野球部以外で、どのくらいの投球数となっているかを、学校野球部が把握しきれていないなどの問題もある。 また、日本でも同じことだろうが、米国でも、高校野球で投球数制限をしても、小中学生の段階で、すでに登板過多となっている子どもたちがいる。 大半の州で厳密な投球数制限と休養日規則が導入されたのは昨年からだ。この規則がどのくらい故障の予防に役立っているのかは、米国でも、これから検証されることになる。投球数制限だけでなく、投球フォームや、サマーリーグとの掛け持ち、試合以外での投球数、他のリスク要因についても研究が進められている。 日本の高校野球界や、アンダー世代も、米国で進んでいる対策の中身と、その効果を追跡し参考にする必要があるのではないだろうか。 (文責・谷口輝世子/米国在住スポーツライター)