「紅白打ち切りも」前田会長よ、NHKを壊すな〈強引な左遷、露骨な番組介入……ついに職員が立ち上がった〉/職員有志一同――文藝春秋特選記事【全文公開】
「文藝春秋」6月号の特選記事を公開します。文/職員有志一同 ◆ ◆ ◆ NHKはかつてない危機に瀕しています。私たち職員は、以前のような取材や番組制作への意欲を持つことができない状況に追い込まれ、人心は荒廃し、職場には重苦しい雰囲気が漂っています。 それは前田晃伸会長(77)による、あまりに強権的で杜撰な改革が次々と断行されているからです。前田会長は二〇二〇年一月の就任以来、「スリムで強靱なNHK」をキーワードに改革を進めてきました。その対象は組織、人事制度、番組内容にまで及びます。 もちろん私たちも改革をすべて否定するわけではありません。視聴者からNHKの経営姿勢に厳しい視線が注がれているのは承知しております。しかし、前田会長が手掛ける改革案は、NHKの将来を考えたとは言い難く、「良い番組を作ろう」と高い志を持つ職員の心を、平然と踏みにじるかのような内容ばかりです。三年という任期の間に、自分の爪痕を残したくて「改革のための改革」を行っているのが実情です。 ともに仕事をしてきた私たちの仲間は次々とNHKを辞めています。例えば、ついこの前も将来を嘱望されていた女性記者が、今の状況に嫌気がさしてヤフーに転職してしまいました。ネット業界に移ったり、商社や不動産など異業種に飛び込んだり。休職して、その間に勉強し、大学の研究職を目指す人もいる。前田会長のもとではもはやこの先の未来が描けないと、NHKに見切りをつけているのです。 お気づきの視聴者の方も多いと思いますが、前田会長時代になってから、「ガッテン!」や「バラエティー生活笑百科」など、長寿番組が突然、打ち切りとなり、かつての焼き直しのような空疎な内容のものが散見されるようになっています。 また報道に関しても、後述しますが、誤報やお詫び訂正の数は圧倒的に増えました。貴重な人材を次々とリストラし、強引なコストカットばかり進めているため、番組の質が下がるのも当然のことです。 私たちは、NHKとは受信料で成り立つ、国民にとっての共有財産であると信じています。公共放送であるNHKは、決して国のものではなく、職員、ましてや前田会長の所有物でもありません。このまま前田会長が身勝手な改革を進めれば、NHKは必ず崩壊する。それは国民にとっての大きな損失を意味します。 我々は、十数名からなる職員有志です。年齢は三〇代から五〇代後半で、所属は番組制作局、報道局など多岐にわたり、全国各地の地方局で勤務する職員も複数います。 このままNHKの現状を、指を咥えて見ているわけにはいかない。そこで誌面を通じて、前田会長の改革のどこが問題なのか、職員たちはどのような状況に陥っているのか、申し上げたいと思います。 「バットを振り回す」動画 前田会長が就任してから、定期的に全職員に向けて、改革案や今後の方針を述べる動画が配信されるようになりました。時には六十枚以上もの資料が添付されたメールが送られてくることもあります。 最初の頃の映像を見た時の衝撃は今も忘れられません。 画面に登場した前田会長は、聞き手の桑子真帆アナを相手にブンブンと野球バットを振り回しながら登場したのです。おそらく改革の意欲を高らかに宣言したかったのでしょうが、職員からは大顰蹙です。さすがに上層部も問題と思ったのか、後日、別の動画に差し替えられていました。 就任会見では「NHKグループで働くすべての人が、健康で、誇りを持って、生き生きと働くことができる環境づくりを進めてまいります」と述べていた前田会長ですが、実態はその真逆です。強権的な体質が剥き出しになり、職員が萎縮するまでに時間はかかりませんでした。 具体的な事例は枚挙に暇がありません。たとえば露骨な人事介入があります。プロデューサー上がりの前理事が前田会長の「職種別採用を廃止する」という人事案を目にして、「職域を外したら人が育たない」と苦言を呈すと、途端に次の人事で大阪放送局担当に異動になりました。実質的な左遷です。
本文:9,219文字
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職員有志一同/文藝春秋 2022年6月号