あまり「速くない」グループBマシン シトロエン・ビザ・トロフィー(1) NAの1219cc 4気筒は104ps
グループBマシンらしくない速さ
苦痛と快楽は、どうやら近いところにあるらしい。ロールケージをすり抜け、深いレーシング・バケットシートへ身体を押し込む。ハーネスを締め、姿勢を整える。 【写真】1980年代のミニ・クーパー シトロエン・ビザ・トロフィー Gr.Bマシンに化けたモデルたち フェラーリ308も (145枚) 車内は蒸し暑い。アクセルペダルを踏みキーをひねる前から、額が汗ばんでいるのがわかる。1度目は失敗。2度目でくすぶり、3度目の正直。グループB公認のラリーマシンが、再び生気を取り戻した。 当然のように轟音。右足へ力を込めるたび、周囲を張り詰めたサウンドが満たす。陽気なイベリア半島を歩く観光客が、何事かと振り返る。笑顔に変わり、スマートフォンのレンズがこちらへ向けられる。 少し温まったところで、シフトレバーを倒し1速へ。ちょっと動きが渋い。 クラッチペダルを緩め、オフロードコース目掛けて発進。木々の間の狭いルートを、砂埃を巻き上げながら加速する。サスペンションは意外と柔軟。シトロエンだから当たり前かもしれないが、しっとり落ち着いているわけではない。 かなり忙しいが、ひたすら楽しい。ドライバーとのコミュニケーション力も高い。充分にすばしっこいが、グループBマシンらしくないのが際立たない速さだ。 その時代を知っている人なら、キリキリにチューニングされたハイパワーエンジンと、モンスターのような咆哮、コースから弾き飛ばされそうなスピードを想像するだろう。しかし、シトロエン・ビザ・トロフィーは違う。
1982年に設けられた自由度の高いグループB
小さなハッチバックには、ツインキャブレター付きの1.3L 4気筒エンジンが載っている。ボディにレッドとブルーのストライプがあしらわれた、本格的なラリーマシンだ。ちゃんとグループBの規格にも則っている。 実のところ、改造範囲が広かったこのカテゴリーは、スーパーマシンだけが該当するものではなかった。国際自動車スポーツ連盟の決定を受け、ラリーを主催したロンドンの団体、コンバース・スポーツ・イニシアティブ(CSI)は、1982年に新規則を発表した。 それまでの量産ツーリングカー・レースに設けられていたグループ1とグループ2は、改造が許されないブループNと、改造可能なグループAへ置き換わった。これらは、5000台以上の生産が要件とされた。 グループ3とグループ4はグループBへ集約。これは、200台以上の生産が求められた。性能を引き上げた、進化版の限定生産も認められた。 グループBカテゴリーは自由度が高く、二輪駆動だけでなく四輪駆動も許され、エンジンはミドシップでも良かった。ユニットの排気量に応じ、15段階のクラスも設けられた。 過給器を積む場合は、通称ターボ係数が掛けられ、該当クラスが決められた。1.4Lエンジンでも、ターボを載せた場合は2.0Lクラスに属した。車重やタイヤサイズなどに、制限も設けられた。 小さなビザ・トロフィーが属したのは、エントリーレベルといえたB9クラス。若いドライバーへ、参戦車両を安価に提供する目的があった。