タカラトミーで初めて社長に めざしたのは「顔が見える経営者」 新日本プロレス前社長
【出世ナビ】仕事人秘録 新日本プロレスリング前社長 ハロルド・ジョージ・メイ氏(12)
業種や規模はもちろん国境をも軽々と飛び越えて次々に効果的な策を打ち出し、企業を成功に導く。こうした「プロ経営者」と呼ばれる人たちの一人がハロルド・ジョージ・メイ氏だろう。赤字状態だったタカラトミーの社長となるや、わずか数年で最高益へと業績をV字回復させた。そのメイ氏は2018年、新日本プロレスリングの社長に就いて、新たなファンを呼び込んだ(2020年10月に退任)。メイ氏の「仕事人秘録」の第12回では、タカラトミーで初めて社長に就いた体験を語ります。
タカラトミーで社長を経験し、それまでの仕事と根本的な違いを感じた。会社の大きな方向性を決めるために長期の視点が重要ということだ。
サンスターで執行役員を務めた後は日本コカ・コーラで副社長になり、さらにその後にタカラトミーで初めて社長になりました。 社長職はそれまでのブランドマネジャーなどとは根本的に違います。以前は目の前のことや6カ月から1年先を見据えて仕事をしていましたが、社長は5年先や10年先といった長期目線で会社をかじ取りする必要があるのです。 トップダウンによる意思決定は本来、長期のビジョンに基づくものです。私は組織を率いるリーダーとして、短期的な視点だけでなく長期的視点をいつも忘れずに全体を考えるようにしています。
新日本プロレス社長としては「率先して前に立ち企業の顔になる」ことを心がける。自ら会場に赴いてファンに声をかける。ステッカーを配り写真撮影にも応じる。背景にはマーケティングの変化があるという。
私は社長として積極的に前に出て顔を覚えてもらおうとしています。マスコミからのインタビュー依頼もどんどん受けています。公式ホームページではコラムを書き、考えを丁寧に伝えるようにしています。 プロレスは日用品や食品といった形のある商品を販売するのではなく、お客さんに「期待」や「楽しみ」といった形のない商品を提供しています。形のない商品だからこそ経営には繊細さが必要です。選手の離脱やケガなどでお客さんの間に不安が広がりそうな時は、すぐにコラムを更新して自分の言葉で説明するよう心がけています。 従来のマーケティングは基本的に「商品」が中心でした。商品をいかに印象づけて売るかを重視してきました。ところが、そういった考え方は古くなり、ブランドを重視するようになっていきました。「商品ブランド」を育てるという考え方です。ブランドは企業にとって貴重な資産です。 それがさらに進化したのが企業ブランディングです。その商品をつくっているのはどんな企業なのか。良質で安全な商品を提供しているのか。経営者がきちんとした考え方を持ち、消費者や従業員、株主を大切にして責任を果たしているかなどが重視されます。 ブランドは「信頼」という言葉にも置き換えられます。消費者から「優れた企業」というイメージを持ってもらい、信頼を得ることが大事なのです。 いま、新日本プロレスはチケットを取るのが難しいほど多くのお客さんを集めています。しかし、中にはプロレスに対して誤解や偏見を持っている人もまだいます。それを減らすにはまず経営者の顔が見えることが重要です。社長はどんな経歴の人間なのか、その経営方針や実績、姿勢を知ってもらうことで、安心や信頼を獲得し、企業ブランドが向上すると思います。 [日経産業新聞 2019年8月19日付]