新型コロナ・病床に対する補助金「1日当たり最大43万6000円」は妥当だったのか?...診療報酬制度とのミスマッチ
予備費について
■土居 これまで話してきた布製マスク配布事業や病床確保事業には、予備費も充てられました。この予備費に関する会計検査院としての問題意識や事後評価についてもおうかがいできればと思います。 ■田中 予備費は憲法87条に基づいており、議会の事前承認が必要な財政民主主義の基本となる第83条の例外です。議会の事前チェックなしで内閣の責任で使えるお金ですから、アカウンタビリティー(説明責任)が非常に重要だと思います。また、その執行状況、すなわち決算を検査するからこそ役立つ部分があるとも思っています。 予備費は、これまではかなり抑制的に設けられていました。新型コロナの前年には5000億円であった予備費は、2020年度には新型コロナ対策で約10兆円という前代未聞の予算額になりました。 最初は大まかな目安として10兆円の規模が設けられたのだと思いますが、実際にはどれほど使われたのかという点を明らかにして、議会や内閣にフィードバックすることが重要だと考えました。 ■土居 前代未聞、かつ「大まかな目安」である10兆円のどういう点に着目して検査をされたのですか。 ■田中 実は、その金額に着目する以前に、どのように検査するかというのが最大の難関でした。霞が関では「予算に溶け込む」という言い方をしますが、補正予算や予備費のみを取り出し、いくら使ったかということが今の決算制度では実は分かりません。そこを何とかできないかということを、2020年からずっと考えていました。 ■土居 決算書で分からない部分をどのように把握したのですか。 ■田中 現場力です。調査官が各省の担当課を回って1件1件調べてくれました。すると、各省で事業単位で施策登録の管理簿をつけていたということが分かりました。 そこで確信を得て、「事業単位でコロナ予算の管理簿をつけていませんか」と聞くと、実に相当数の管理簿が見つかりました。2019年度から2020年度末までに770ほどの事業が出てきました。その経験から、コロナ予備費も調べられるだろうと思いました。 しかし、次の壁は1つの事業に複数の財源が入っている場合で、予備費だけを取り出すのが難しい。そこで再び各省に確認したところ、財源別で管理されていることが分かりました。 財源の使い方には「先入れ先出し執行」、「予備費優先執行」、「補正予算優先執行」の3パターンしかなかったことがそこで初めて分かり、そこから予備費のみを取り出すことができたのです。 ■土居 現場の職員以外は誰も知らなかったということは驚きです。しかし、それ以上にどういう順番でお金を使い、どの財源がいくら残っているのかの整理簿や管理簿をきちんとつけて出納の面で管理していることは初めて知りました。 ■田中 昭和29年(1954年)閣議決定「予備費の使用について」第4項に、予備費は「その目的の費途以外に支出してはならない」と書かれています。私どもはこの70年も前の古い閣議決定がいまだに大きな効力を発揮していると思っており、そのことは報告書にも記しました。 ■土居 それは本当に驚きですね。ところで、ここで1点確認したいのですが、予備費は翌年度に繰り越せないはずですよね。 ■田中 予備費そのものを翌年度に持ち越すことはできません。どうしても年度をまたぐ事業の際には、予算の繰越しを事前承認してもらう「明許繰越し」は可能で、実際には、予備費の使用を決定して事業費の予算にした後、全額繰り越されていたケースもありました。 例えば、予備費の使用について年度末の3月23日に閣議決定されたものは使える日数が年度内に残り数日ぐらいしかないのに、その予備費の積算を見ると240日とか12カ月分が計上されているものがありました。 各省に聞いたところ、年度内に使う予定だった、と。財務省も年度内に使われることを前提として手続きをしたと回答するなど、我々には判然としませんでした。 ■土居 2020年は新型コロナの影響で予測が難しい状況だったため、大きな予備費を積んだのだと思いますが、ある程度使途が分かるなら、財政民主主義の観点からも費目を限定した予算を最初から組むべきだったと思います。
田中弥生 + 土居丈朗