過剰な白肌信仰にNO! 美白からの解放を求める世界の声。
女性たちが白い肌を求めて化粧品を使い始めたのは16世紀頃のこと。以来、長きにわたり人々の関心を集めてきた美白だが、今、その是非を問う議論が世界で巻きおこっている。白肌信仰を煽るような商品は差別を助長するだけでなく、体や心にもダメージを与えうると懸念されはじめているのだ。過去10年間で増加傾向にあるアンチ美白の世界の動向を見ていこう。
スキンブリーチング(肌の漂白)、ホワイトニング(美白)、ライトニング(明るくする)──こうした表現はすべて、クリームや洗顔料などのアイテムを用いて肌の色を明るくする美容術を示すものだ。一口に明るくすると言っても、多少のトーンアップから見た目の印象ががらりと変わるほどの漂白まで、その程度はさまざまだ。 スキンライトニングの問題点は多岐にわたる。特にある人種や民族集団の中で、浅黒い肌よりも色白の肌の方が価値があるとされる偏見、いわゆる「カラーリズム」の一環として、肌の漂白は人種差別を固定化する原因のひとつとなっている。また、性差別的な美の概念を助長しているという点で、この偏見によって苦しめられる対象は圧倒的に女性が多い。さらに、もはや時代遅れになった「階級」という概念を蒸し返すという悪影響もある。肌の白さは権力や社会的地位の象徴であり、肌を真っ白にすることで、社会的地位の向上が望めるという考えはいまだ根強い。インドをはじめとする一部の国々では、肌が浅黒いというだけの理由で就職がかなわなかったり、見合い結婚が破談になったりする恐れすらあるのだ。 アフリカ、アジア、カリブ海沿岸の一部地域で広く行われている美白習慣は、ヨーロッパや北米のディアスポラ(故郷を離れて暮らす人々)コミュニティにも浸食している。世界保健機関(WHO)の推計では、肌の漂白に対する反対運動が支持を集める中にあっても、スキンホワイトニング市場は2024年までにおよそ312億ドル(約3兆3000億円)規模にまで成長するとみられている。 ホワイトニング製品の中止だけでは解決しない。 一方、Black Lives Matterに象徴される人種間の不公正に対する抗議運動が世界中で盛り上がりを見せる中、消費者向けの大手ブランド各社が、次々に製品ラインナップを変更する方針を明らかにしている。今年6月にはジョンソン・エンド・ジョンソンが、アジアと中東で販売していた2つのスキンライトニング製品シリーズを製造中止にすると発表した。これに続きユニリーバも、インドで展開中の、商品名が問題視されていた美容クリーム「フェア&ラブリー」を「グロウ&ラブリー」に改名し、「色白」に価値があるとする表現を取り下げた。ロレアルも、マーケティングで使用する言葉について、同様の改訂を行うと表明している。 だが、こうした大手メーカーの対応に、すべての人が満足しているわけではない。そのひとりが、2009年にインドで始まったカラーリズム反対運動「ダーク・イズ・ビューティフル」の提唱者カヴィサ・エマヌエルだ。ホワイトニング市場についてエマヌエルは、「各ブランドが広告などの文言を通して人々の不安感をあおり続ける限り、この市場は成長し続けます」と一刀両断する。ユニリーバが「色白」という単語が入った製品名を見直した件についても、この対応では「不十分だ」とエマヌエルは批判する。同社が、ファンデーションについては女性の権利拡大を後押しするようなメッセージを発信しながら、一方でスキンライトニング製品を販売しているのは偽善的だというのがエマヌエルの主張だ。 「女性の権利拡大とカラーリズムのような偏見の助長が、両立するはずはありません」 ちなみにユニリーバは、ファンデに関してはいまだに「フェア&ラブリー」というブランド名を使用していることについて、年内に見直す予定だと述べている。