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アコードの挑戦 ヒットが難しい「大型セダン」の狙い 小沢コージのちょっといいクルマ

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NIKKEI STYLE

セダン離れが進む中、ホンダは400万円を超えるラージセダン、10代目アコードを国内投入した。月販目標は300台。大ヒットするとは考えにくい大型セダンを、あえて導入する意図とは何か。小沢コージ氏が直撃した。 アコードのエンジンや室内などの写真はこちら

■月販目標300台のアコードを残したワケ 先日、ホンダを代表するラージセダンである10代目アコードの試乗会が行われたのだが、ほぼ同じタイミングで少々意外なニュースが飛び込んできた。シビックセダン、グレイスというコンパクトセダン2車種の生産中止がアナウンスされたのだ。これ、クルマ好きならずともちょっと考えさせられる判断ではないだろうか。 なぜならシビックセダンは、約3年前に鳴り物入りで国内再投入を決めたホンダを代表するビッグネームのひとつ。そしてグレイスはホンダが誇る人気コンパクト、フィットの事実上のセダン版だ。どちらもアコードと比べれば価格は手ごろで、ある程度売れそうな要素を持っているのだ。もちろんセダン離れが進む現在、両車とも国内登録車販売のベスト30にも入らないほど苦戦している。だがモノグレードで465万円からという新型アコードが、この両車種以上に売れるとは思えない。 200万円以下の安いコンパクトセダンなら、手を出す年配客はいるかもしれない。だが今どき400万円以上払うなら、トヨタ アルファードのようなラージミニバンか、ドイツ製のプレミアムセダンを選ぶ人がほとんどだろう。 ホンダもその辺りは認識しており、新型アコードの月販目標は300台と控えめだ。事実、先代アコードの販売実績も導入年の13年こそ年1万台強だったが、2019年は1056台と、月100台も売れてない。ホンダの販売ディーラー数は2000店舗以上あるから、1店舗平均で見ると、年間1台も売ってない計算になるのだ。正直、ビジネス効率が悪すぎる。 どうしてシビックセダンやグレイスを生産中止にしてまで、アコードを導入するのか。そんな疑問を単刀直入にぶつけてみると、こんな答えが返ってきた。 「アコードはホンダブランドを象徴するセダンとして位置付けられています。一方で国内でセダンのラインアップが(リース専用車両を除いて)6車種もあるのは多すぎると認識しており、それを整理するためにアコードを残し、シビックセダン、グレイスを生産終了する選択をしました」(ホンダ広報) 要するにセダンの車種が多すぎるのは重々承知の上で、アコードは「ホンダの顔」だから売り続けるというわけだ。しかし実車に乗ってみると、解せない判断を下したホンダの思いが少しずつ分かってきた。 ■テスラ製EVセダンにも負けない静粛性と乗り心地 ズバリ、10代目アコードは歴代最もセクシーで快適なアコードと言ってもいい。最大のポイントはスタイリングで、9代目アコードに比べてフロントのオーバーハングを縮めて、全長を45mm短縮。一方でホイールベースを55mmも伸ばし、キャビン空間を広げた。フロントウインドーの位置を後ろに下げたことで、ロングノーズのスポーツカーのように伸びやかさが際立つフォルムとなった。 室内空間も快適で、キャビンが拡大した分、フロントシート、リアシートとも、やたらに広い。後席の頭上は全高を15mm下げた影響もあり、それほど開放的ではないが、ヒザの前には握りこぶしが2個半か3個分入る。下手なミニバンを超えるのではと思うほどの広さだ。トランク容量も573Lと大型ステーションワゴン並みで、これでリアシート専用のエアコンやマッサージ機が付いてれば、VIP向けのショーファードリブンカー(運転手付き高級車)として通用すると思ったほど。 運転してみると、さらにこのクルマの実力が伝わってくる。新型アコードは国内ではハイブリッド専用車なのだが、ホンダ自慢の電動駆動システムe:HEVがすごいのだ。2リッターガソリンエンジンを発電用と割り切り、高速クルージングを除いたほとんどの場面で、184ps、315Nmの電動モーターがクルマを駆動する。つまり、乗った感じはほとんどフルEVなのだ。ボディーは大柄だが1560キログラムと軽く、かったるさとは無縁だ。 驚速で知られたテスラ・モデルSのような異様な加速感こそないが、アコードのe:HEVはとにかく静かで滑らか。タイヤが若干硬めな印象があるものの、大型セダンとしてはトップクラスの快適性といっていい。ステアリングのダイレクト感も申し分なかった。 実燃費も驚くほど優秀だ。現実的な数値が出やすいWLTCモードで22.8km/Lというカタログ燃費は、ライバルのトヨタ カムリ ハイブリッドを上回る。実際に高速でのんびり走ってみたら計測燃費は20km/Lを超えた。 ■自信作だからこそ、日本のお客様にも楽しんでもらいたい 試乗後に開発トップの宮原哲也エンジニアに話を聞くと、彼らのアコードにかける思いが伝わってきた。 「今回のアコードは我々からするとかなりの自信作。米国や中国だけでなく、世界中のどこに出しても喜んでいただけるモノだと思っています。日本のお客様にこのクルマの良さを楽しんでいただけないのは切ないので、何が何でも出したかったというのが本当のところ。それにミニバンのホンダ、軽のホンダだけではないという部分もお見せしたかったですし……」 実際、新型アコードは世界の大市場、北米と中国で売れている。19年には北米で約26万台、中国で21万台以上も販売した。特に中国ではセグメントトップで、なんと購入者の平均年齢は30歳を切るという。ある意味、奇跡的な人気の高さなのだ。そんなアコードの国内発売は「売れる、売れないの問題じゃない。このクルマに乗ってみてほしい!」という、作り手の純粋な願望から生まれた戦略なのではないだろうか。 アコードといえば、かつて「ホンダらしさ」の象徴でもあった一台だ。今でもそんなアコードを愛し、長く乗り続けているお客様もいるという。だからこそ、上出来な10代目で「あの素晴らしいホンダよ、もう一度」と考えているのかもしれない。 小沢コージ 自動車からスクーターから時計まで斬るバラエティー自動車ジャーナリスト。連載は「ベストカー」「時計Begin」「MonoMax」「夕刊フジ」「週刊プレイボーイ」など。主な著書に「クルマ界のすごい12人」(新潮新書)「車の運転が怖い人のためのドライブ上達読本」(宝島社)。愛車はロールス・ロイス・コーニッシュクーペ、シティ・カブリオレなど。 (編集協力 出雲井亨)

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