橋本新会長誕生で女性の人材不足が鮮明に、日本型雇用システムの本質的問題
森喜朗氏の後任となった橋本聖子氏が注目されているが、今回の騒動で女性の人材不足の深刻さが明らかになった。今の日本社会を変えるためには、年功序列・終身雇用といった「日本型雇用システム」にメスを入れるしかない。(立命館大学政策科学部教授 上久保誠人) 【この記事の画像を見る】 ● ある種の「族議員」橋本聖子氏 深刻な女性の人材不足 東京オリンピック・パラリンピック組織委員会の新会長に橋本聖子・前五輪担当相が就任した。「女性」の起用を求める世論が高まっており、橋本新会長の誕生はよかったといえるだろう。 橋本新会長は、夏・冬合計7回五輪に出場し、メダリストである。また、政治家としても、五輪担当相のほか、女性活躍担当相、男女共同参画担当相、自民党参院議員会長などを務めてきた。ただし、その活動は、「スポーツ」「女性」の利益を代表する活動にとどまってきた。 野田聖子氏、高市早苗氏、稲田朋美氏のような、巨大な官庁の長として大臣になり、さまざまな利益集団、官僚、族議員の間の難しい調整をし、経済財政、産業、防衛などの政策を練り上げる経験を積み重ねてきたわけではない。 つまり、「日本初の女性首相」を目指して研鑽を積んできたタイプの政治家ではなく、橋本氏は利益集団を代表して、予算等を獲得する、ある種の「族議員」として政治活動としてきたといえる。複雑な利害関係を調整してきた経験は乏しいのだ。「元首相」の森氏の後任として五輪組織委員会の長という重責を担う力量があるのだろうか。 橋本氏の会長選出の過程を見ると、スポーツ界のみならず、日本社会全体で、「女性」の人材不足の深刻さが浮き彫りになったのではないだろうか。
● 女性をシンボルに、その下で「昭和の保守派」がうごめく? 橋本氏以外にも、さまざまな候補者の名前がメディアで取り沙汰された。その中には、菅義偉首相や、小池百合子東京都知事などの意中の候補というような、真偽のわからない情報も飛び交った。 突き詰めれば、どの情報も「権力者が意のままに動かせる候補者」は誰かというものだった。この難局を克服して五輪・パラリンピックを開催させる器量がある人物は誰かという話は出てこなかった。スポーツ界に限らず、ビジネス界、学界まで範囲を広げて人材を求めてもよかったが、それもなかった。 結局、森前会長と「親子のような信頼関係」がある「スポーツの族議員」の橋本氏が「昭和の保守派」の男性陣(本連載第268回)にとって最適の人材だったということだと思う。 東京五輪・パラリンピックを仕切るのは、橋本新会長、小池東京都知事、橋本氏の後任の丸川珠代・新五輪担当相の女性3人だ。今後、日本社会ではさまざまな場面で女性を積極的に起用しようとすることになるだろう。 だが、「イメージがよくて、言うことを聞く女性」を組織のシンボルとしてリーダーに担ぎ、その下で「昭和の保守派」が旧態依然たるやり方を死守するのであれば、むしろ世界の進歩からこれまで以上に取り残されることになるだけだ。 結局、企業の管理職における女性の割合が、わずか14.9%だということなど(参照:男女共同参画局)、日本の女性の社会進出は世界の中で極めて低いという現実を直視するしかない。 世界には、ノーベル平和賞候補にも挙がるニュージーランドのジャシンダ・アーダーン首相(40歳)やフィンランドのサンナ・マリン首相(35歳)などの女性指導者がいる。だが、彼女たちの登場の背景に、社会全体で女性の活躍を進めてきた基盤があることを忘れてはならないということだ。