にじさんじ・山神カルタが秘める類まれなポテンシャル 自然体な振る舞いの中でキラリと光る“ジェットコースター式トーク”の魅力
現在のVTuberシーンにおけるトップランナーの一つであるにじさんじ。そのなかにおいてもタレントの活躍する分野は日々拡がっている。 【動画】約5秒で4回話題が変わる おしゃべりジェットコースター・山神カルタ メインとなる生配信に加え、事務所が主導する企画への参加や監修、主に一人ひとりのライバーが主導となって進む歌ってみたなどの動画のほか、ここ数年ほどはエンターテインメントのフィールドでアーティストとして日の目を見る者も増加してきた。 育成プロジェクトであるバーチャル・タレント・アカデミー(VTA)からも新規ライバーがデビューし始めており、現在約150名のメンバーが所属・活動しているにじさんじ。その層の厚さで今後も大きな影響を与えるだろう。 今回記していく山神カルタは、2019年10月17日にTwitterで初めてツイートし、10月19日にYouTubeで初配信を迎えた。ここ数週で追いかけてきた星川サラ、フミと同期であり、「織姫星」として支え合ってきた。 ちなみに、フミを神の存在として七夕、星川を天の川とそれぞれ連想しつつ、天の川の橋渡しをして織姫と彦星を出会わせる「カササギ」を、“見習いの烏(カラス)天狗”と紹介される山神カルタへと連想させたのが、織姫星の由来である。 にじさんじメンバーの間では同期同士のユニット名や、コラボを通じて仲良くなった際にコラボ名が名付けられることがあるが、ライバーたちがその場のノリでつけたものもあれば、リスナーからの発案・公募で名付けられたものもある。 織姫星の名付け親はフミであり、そのロマンティック度合いでいえば数あるにじさんじのユニット名・コラボ名のなかでも比肩するものはないだろう。 星川、フミの記事内でも言及したが、この3人は非常に仲が良い。どれほどかといえば、毎日のように連絡を取り合い、毎月のように3人によるコラボ配信が催されるほど。これほどに親密な関係性を配信で見せてくれる同期組も、にじさんじのなかではほとんどいない。 配信でリスナーからの恋愛相談をうけつけてアドバイスを送ろうとする明るい性格の星川サラ、オリジナリティある活動内容からも分かる通り自身の活動に明確なビジョンを持つフミ。そんな2人に比べると、山神カルタの活動内容や性格からは「自然体の女の子像」がかなり滲み出ており、その可憐さや無垢なイメージが目を引く。 藍色の髪で左右にお団子を作り、修行の身ということで白と赤を基調とした作務衣や僧服を思わせるデザインの服装をしている。このほかにも白いミニドレスや、暗めの長袖私服、織姫星三人共通の衣装ではクールにきめた姿も見せてくれている。 ■「ストレス解消はしゃべること」と話すほどおしゃべり好きな山神カルタ とある配信のなかで、山神カルタは「おすすめのストレス発散方法はなんですか?」というリスナーからの質問に対して 「一番のストレス発散方法はしゃべることかもしれない。中身のない会話を永遠とつづけることがストレス発散」 と答えていたことがある。 「話したいことが多すぎるので毎日雑談したい」というほどのおしゃべり好きであり、実際に彼女の活動内容を通して一番多くおこなわれてきたのが雑談配信だ。 デビュー当初は抑揚が少なく、のんびりとした印象を与える声と口調だったが、現在ではかなり早口でリスナーに語りかけるようになったようだ。 「え、ってことはあたしって寂しがり屋ですか? 自己中なのかな? ただただ話を聞いてほしいだけなの。(リスナーのコメントを見て)“悲しきおしゃべりマシーン”じゃないよ!」 先の動画を見てもらえれば、リスナーとの軽快なやりとりが見て取れる。彼女の面白いトークに引き寄せられ、ヒネリの効いたコメントを流すリスナーも増えたことで、一層彼女の雑談配信は魅力に溢れるものになった。 そんな彼女のトーク・雑談スタイルはというと、サラっと会話しているかと思いきや、何の脈絡もなく違う言葉を口にして、そちらのほうへ話題がうつり変わることが多く、転がるように話題を変えながら淀みなく展開していくのが特徴。 あまりに唐突に話題がガラっと変わることでリスナーも驚くコメントを残すこともあるが、本人としては何の違和感もなく会話を続けていくので、「あれ? 自分がおかしいのか?」としばしば自問してしまうリスナーもいるだろう。 そんな彼女の会話は、“脊髄トーク”と評されることが多い。話したい欲求が先立ってしまい、あれこれと言葉を連ねているうちにあまりにも脈絡のない発言がうまれてしまい、リスナーが「どういうこと?」と疑問符を浮かべてしまうようなシーンが訪れるのだ。 同じにじさんじライバーでいえば、葛葉や不破湊らがこういったテンポ・内容の会話をしていくことが多いのだが、彼らに負けず劣らずのトークを展開することが多く、これまでにじさんじの公式チャンネルを通じて何度もネタにされてきた。 雑談上手といわれる月ノ美兎やジョー・力一のような理路整然とした語り口や、葛葉や不破のように話の筋を通しながらも急に“パワーワード”を投げ込むようなスタイルとも違い、筋通りに話しているかと思いきや「っていうかぁ……」と切り出していきなりどこかへ話題がすっ飛んでいくスタイルは、先輩のアンジュ・カトリーナと近しい。 とはいえ、おそらく彼女は狙ってこのようなトークをしているわけではなく、“おしゃべり好きな女の子”という生来の個性があってこそ生まれたのではないかと筆者は感じている。 ちなみに、彼女が発したセリフのなかで、筆者の記憶に強く残っているものといえば、ふっとしたタイミングで発した「人生どうでもEDM」という言葉。リズミカルな語感で意味合いも快活。彼女の雑談力……いや“迷言メイカー”な一面をアピールする名文句となっている。 こうした個性豊かなトークでリスナーを惹きつける山神だが、その口調・レスポンスともに前述したようなおっとりとした、“天然”な印象も残っている。 グウェル・オス・ガールが主催する名物企画「ワードウルフ」へ参加した際には、ゲームを開始する前にしっかりとルールについて説明されたのにも関わず、解答する際に「あの、ヤマ(山神)はヤマ(山神)なんですけど?」と謎の質問をしてしまい、ゲームマスターのグウェル及び、ゲームに参加していた夕陽リリ、伏見ガク、来栖夏芽、そしてリスナー、その場に居合わせた全員を混乱させてしまうほど。 夕陽リリから「ルールを把握してないですこの子!」と思わずツッコまれるほどであるが、納得のツッコミだったと言わざるを得ない。 本人いわく「自分ではすごく考えながら発言している」ようで、とある雑談では、リスナーから「ヤマってたまに何も考えなくなるよね」とストレートなコメントをもらったときに 「そりゃ……そうかな。基本的にあんまり……いや考えてはいるか。配信中はむちゃくちゃ頭回ってるよ」 「それを考えてないように見せているのが、ヤマのすごいところなのよ。そう考えると『何も考えてないように見える』と言わしめるのが、ヤマの実力。すごすぎ」 と、このような機転の利いたレスポンスを返してみせている。実際、頭の回転の速さを裏付けるようなエピソードも存在する。 にじさんじ内の大会『にじさんじ遊戯王マスターデュエル祭2022』に出場した影響もあり、ここ半年で『遊戯王 マスターデュエル』をかなりやり込むようになった山神。 師匠役となった春崎エアルの言葉や腕利きのリスナーらのコメント、さらには同ゲーム独特のゲームシステムや語句についても、初見でプレイした時点から難なく理解してみせたのだ。 くわえて「さっき〇〇〇って言ってたけど、今だと×××ってこと?」と、少し複雑な内容でも詳細を教えられるまえに何度も自力で最適解にたどり着いてしまい、春崎やリスナーから驚かれていた。 その成長速度から多くのデュエリスト(遊戯王プレイヤー)からは多くの期待を寄せられているようで、その後彼女の配信において『遊戯王マスターデュエル』をプレイする際は多くの視聴者が集まるようになった。 数珠つなぎのように続いていく会話と発せられる“名言と迷言”の数々、スっと差し込むような機転の利いた受け答え、カードゲームで見せた理解力の高さ、それでいて時に間の抜けたとぼけた一面。 そのどれもが、山神カルタは“おしゃべりが大好きな自然体の女の子”という像を形作る、重要なファクターとなっているのだ。 ■配信からうかがい知れる良好な友人関係とドラマ そんな山神カルタは、にじさんじ内の同僚らと深い親交を持つことが多く、同性・異性関わらずに多くのライバーと親睦を深めてきた。 同期の星川サラ、フミに始まり、星川との関わりから仲良くなった雪城眞尋、『にじさんじフェス 2022』での共演をキッカケにその後も共に活動するようになった東堂コハク、卒業数日前までコラボ配信をしていたメリッサ・キンレンカ、ラジオ企画『やまなつ晩酌RADIO』でコンビを組んでいる来栖夏芽。 『マリオカート8DX』などのゲーム配信を通じて仲良くなった黒井しば、伏見ガク、黛灰、そして山神にとって憧れの先輩である夕陽リリなどなど……、配信内外でたくさんの友好関係を築いているのが伝わってくる。 いまから約3年前に、デビューしてから半年ほどでチャンネル登録者数が5万人を迎え、その日は『Getting Over It with Bennett Foddy』(通称:壺おじ)をプレイすることになった。 結果からいえば、夜9時ごろからスタートし、明け方の4時になるまで続いた長時間の配信となったのだが、雪城、黛、メリッサ、黒井と1人ずつボイスチャットに入って山神を応援してくれることに。 山神の希望で「敬愛する夕陽リリの物真似」を交えて応援してもらうという一連の流れや、そしてそんな無茶ぶりも受け入れてくれる応援メンバーの姿をぜひ見てみてほしい。数年経過した今でも「山神カルタの友人関係」を知るに打ってつけの内容であろう。 ちなみに、翌日に“修行がある”と話すと、最後に加わったフミを含めて全員が驚き、「ないからやってるのかと思った」「『壺』を甘く見すぎでしょ」と総ツッコミをもらっていたのはご愛嬌だ。 ちなみに当人たる山神が語るところによれば、自身の交友関係は狭く深いタイプだという。彼女が傾ける愛の深さは、人よりも奥深そうなのがさまざまな会話からうかがい知れる。 実際のところ、山神自身が他人に対してどれほどの強い感情をこめているかは、見ている第三者からは判断がつかない。だが、雑談中の会話からは「他人をよく見ている」ことがよく伝わってくる。 その人がなにを感じ、なにを考えているかまで察しようとし、どういった人とどのような仲を築いているのかまで、つぶさに観察しているのだ。 活動最初期に打ち明けていた話では、特別に仲の良い女友達がおり、彼女との移動時には腕を組み、恋人つなぎをして行動を共にしていた。 その関係がピークの時は共依存のような関係となってしまい、別の女性と絡んでいるところを見ると嫉妬してしまっていたという。 そんな事も影響してか、同性へ向けられる感情は非常に深いものがある。たとえば憧れである夕陽リリとは、初対面から1年ほど時間が経過してもスムーズに話すことができず、タジタジになっている印象を与えるほど。 その後夕陽リリとは「みらるた」(未来人とカルタ)のコンビとして活動をともにしはじめ、主導権を握る夕陽・振り回される山神という関係は両者のファンからも人気が高く、徐々に親睦を深めていった。 ある日の配信中にささいなすれ違いから互いの会話がギクシャクしてしまい、空気が悪化したまま配信を終了してしまうという出来事が発生。 その後、山神は雪城に、夕陽は黛に、それぞれ配信を通じて“相談通話”をし、その後2人で再度雑談配信を企画。2人の間にあったすれ違いを解消し、「同僚」からちゃんとした「友だち」になることで円満に解決した。 互いに相手に好意を持っているがゆえ、相手を大切かつ大事にしてしまい、伝えたいことを伝えないまますれ違ってしまう。友人や恋人関係でも見受けられるコミュニケーション・エラーは、時にそのまま喧嘩別れを招くかもしれない。 そんななかで、いちど壊れかけた人間関係が修復していく様子を、配信を通じてリスナーにみせていく、何ともドラマティックな人間模様を2人は示したのだ。周囲の友人らも時に深くツッコんだ言葉選びを見せているあたり、本気で2人の人間関係を案じていたのが伝わってくる。 当時山神・夕陽それぞれのリスナーが冷や冷やしながら見守り、詳しく事情を知らなかったリスナーをも巻き込んだ注目トピックとなった。 そんな山神カルタだが、先述したように夕陽以外にも雪城、来栖、同期の2人と友好な関係を持っているだけでなく、にじさんじのスタジオスタッフや、病院で注射を打ってくれた女性の医師も話題にあげていたこともある。 たまに見せる“夢女子”的な感性・語りも含めてみれば、山神カルタの情緒的で共感性に溢れた、繊細なる感性にも気づけるだろう。 ■運動神経の良さを活かす"歌って踊ってみた"動画投稿など活動はよりアクティブに 2022年5月20日には、山神カルタの3Dお披露目配信が催され、ゲストには雪城眞尋、メリッサ・キンレンカ、夕陽リリ、フミと星川サラの5人が登場。彼女が信頼と親愛をもった女性陣が揃い踏みとなった。 2022年5月末に卒業することが発表されていたメリッサとは最初で最後の3Dコラボであり、お互いが涙を流すといった感動的な一幕もあった。 そんななかでもとりわけ目を引いたのはやはり星川・山神・フミら「織姫星」によるパフォーマンスであろう。元陸上部ということで運動神経バッチリな3人が、しっかりと練習を重ねたこともあり、非常に高い完成度のダンスを披露してみせたのだ。 なかでも主役である山神カルタのキレは素晴らしく、彼女の才覚がようやくお披露目された形になったといえよう。 その後、2022年10月に開催された『にじさんじフェス 2022』ではダンス企画「アイドル好きライバーで踊ってみた!」に出演。シスター・クレア、ドーラ、長尾景、弦月藤士郎、東堂コハクらと共演すると、先にも述べた東堂とのユニット「Twilime(トワイライム)」として活動を始め、“歌って踊ってみた”動画の投稿が増えていった。 “歌ってみた”動画には必要不可欠なアニメーション動画の部分を、自身の3Dビジュアルを活かしたダンスシーンで補い、“歌って踊ってみた”動画として仕上げる。歌だけでなく、ダンスにも自信を持つ彼女らしい配信活動を見せてくれている。 山神カルタはデビュー以前からにじさんじの配信を見ており、伏見ガク、夕陽リリ、雪城眞尋の配信をよく見ていたという。「画面の向こう側にいる憧れの人たち」と同じ立場になって数年、甘えることなく己の良さを存分に発揮し、自らを磨き上げながら積極的に活動をしつづけている。 彼女の背中には、デビューしたときよりも一層たくましくなった、そう感じさせてくれる翼がある。
草野虹