フランク ミュラー「トノウ カーベックス」に込められた“時の哲学”とは?
そうして創案されたのが、世界初のケースデザインである、トノウ カーベックスケース。大きな特徴は、球体から切り出したような、三次元曲線のフォルム。縦・横・斜めのすべての方向に曲線が描かれ、それらの曲線が1点に集約するのです。 ちなみに、そんなことから一般的なトノウ(樽)型ケースとはまったくの別物とされ、欧米では「トノウ カーベックス」ではなく「サントレ(湾曲)カーベックス」と呼ばれています。 さらに、すべてが曲線であるトノウ カーベックスケースでは、サファイアクリスタル風防も3次元フォルムに加工されています。しかし、高硬度のサファイアクリスタルを精確に美しく加工するのは非常に困難なこと。つまりトノウ カーベックスケースは、フランク ミュラーのデザインが素晴らしいだけでなく、加工技術が優れていることも表している。そういう意味でも、フランク ミュラーを代表する名作なのです。
(2)トノウ カーベックに合わせて創案されたビザン数字
前記したイタリア人の婦人のために作られたトノウ カーベックスケースの最初の時計は、ミニッツリピーターとパーペチュアルカレンダーを併載した超複雑機構モデルでした。1986年のイタリア・ビチェンツァの見本市に参考出品し、そこで高い評価を受けます。 その時、トノウ カーベックスケースに合わせて創案されたのが、ビザン数字のインデックス。そしてトノウ カーベックスケースとビザン数字インデックスとの組み合わせは、そのまま1992年のブランド創業時のファーストコレクションにも採用されました。フランク ミュラーのスタイルとして確立され、ビザン数字もまたフランク ミュラーの象徴的なデザインになったのです。 また、ビザン数字インデックスは、職人による手仕事であるのも特徴。数字の輪郭が描かれたなかに手作業でインクを注入し、表面張力によりふっくらと盛り上がった立体的なインデックスに仕上げているのです。 というように、インデックスひとつとっても物語がある。そこがフランク ミュラーの時計の深さであり大きな魅力でもあるのです。