JALのブランドマークはなぜ“鶴”なのか?
日本航空(以下、JAL)のブランドマークには、長年、鶴が使われている。なぜ鶴なのか? 【写真を見る】“鶴丸”以前のJALのブランドマークなど(26枚)貴重な旧機材たち
当初は“鶴”ではなかった!
JALのブランドマークといえば“鶴”でおなじみだ。が、当初、鶴でなかったことはあまり知られていない。1950年代前半、創業直後のブランドマークは、日の丸をバックに飛ぶ航空機だったのだ。しかし、このブランドマークは、「どこの航空会社かわからない」など、評判が芳しくなかったという。 1953年12月、日本航空は太平洋路線開設のため、ニューヨークに営業所を開設する。そして、アメリカ国内向けの広告を、現地の代理店「BCG」に依頼した。 当時は第2次世界大戦直後で、アメリカ国内では反日感情も強く、日系エアラインを積極的に選ぶ人は少なかったという。くわえて、航空機が描かれたブランドマークは「戦闘機に見える」といった声が多かったため、BCGは、独自のブランドマークを制作し、宣伝を開始した。 同時期、日本国内向けの広告も見直されることになり、このとき、はじめて”鶴”が登場する。創業時からJALの広告デザインを数多く手がけた画家の永井郁氏が描いた鶴の絵が、ポスターに採用されたのだ。複数の鶴が舞う絵は人気を集め、その後、時刻表やドル・円換算表などにも使われた。結果、鶴は事実上のブランドマークとして幅広く認知された。とはいえ、この時点ではまだ、鶴は正式なブランドマークとしては採用されていない。 永井氏はなぜ鶴を選んだのか?「当時の資料によると、永井氏は『考えに考えて千羽鶴を紫色の地に描いたデザインを思いつき、それ以降、鶴がJALのデザインテーマとなった』と、述べたそうです」と、JALの広報はいう。
「鶴丸」登場の経緯
JAL、イコール“鶴”のイメージが決定的になったのは1959年、現在も使用されている「鶴丸」の登場だ。 1958年、JAL初のジェット旅客機であるダグラス「DC-8型機」の導入にあわせ、新しいブランドマークを策定することになった。当時、ブランドマークのアートディレクターを務めた宮桐四郎氏は、5人のデザイナーに、「ジェット時代に相応しい現代的なスピード感を持ちつつも、“日本”を想起できる伝統的な面も盛り込んで欲しい」との課題を与えたという。 集まった試作は、いずれも鶴をモチーフに制作されたものの、採用には至らなかった。翌1959年2月、日米の広告担当者が東京に集い、ブランドマークに関する会議が開かれた。アメリカからはBCGの代表とアートディレクター、日本からは宮氏などが参加した。 会議で、BCGは「国際線の主要顧客はアメリカ人。アメリカ人に対し、他国のエアラインにはないJALならではの特徴をブランドマークで表現すべき。それは、“日本”を想起させるモノである」と、主張したという。 アメリカ人から見て、日本を想起するものはなにか? それは、すでに時刻表などに使われていた鶴だ、という結論に至ったという。鶴が描かれるようになってから、“JALイコール鶴”というイメージが定着しつつあったのだ。 会議終了後、鶴をモチーフにしたブランドマークを制作することが決定した。早速、宮氏は試作に着手、その後、BCGの見解をくわえ、最後に、日系2世のデザイナーであるヒサシ・タニ氏が仕上げた。こうして1959年8月、かの有名な鶴丸が誕生した。 以降、鶴丸はさまざまな宣伝媒体や機内商品にあしらわれるようになる。そして、6年後の1965年に社章に採用された。 長きにわたって使用されてきた鶴丸は2002年、日本エアシステムとの統合時に新デザインへ移行、一時、消滅した。しかし、2010年1月の経営破綻後、原点回帰の意を込めて鶴丸は復活する。 ちなみに、今使われている鶴丸と、かつての鶴丸はデザインが微妙に異なる。たとえば翼の切れ込み。いまのデザインは、切れ込みを大きくし、躍動感を高めたという。さらに、クチバシをわずかに上に向け「変革へ向けての強い意志」と「未来への希望」をあらわしたそうだ。
文・稲垣邦康(GQ)