中高生から圧倒的な人気、エモい系小説「ブルーライト文芸」が大人世代にも刺さっているワケ
最も強く特徴づける要素は「ヒロインの消失」
なかでも、ブルーライト文芸を強く特徴付けるのが、「ヒロインの消失」です。 「ペシミさんも言及されていることですが、『ヒロインの消失』は、古くから日本の恋愛小説で繰り返し描かれてきたモチーフです。たとえば1936年の『風立ちぬ』。堀辰雄によるこの小説では、結核を患った婚約者と主人公である“私”との悲恋が描かれています。 比較的新しいところでは、2001年に発表され、320万部超の大ヒットとなった『世界の中心で、愛を叫ぶ』(片山恭一著)も、主人公が最愛のヒロインを白血病で失う話です。 また、2015年に発売され、累計発行部数が300万部を超えた『君の膵臓を食べたい』(住野よる著)も、膵臓の病気を患う美少女と孤高な男子が出会い、少女が悲劇的な最後を迎えるというストーリーです。 こうしたヒロインの『消失』や『喪失』は、昔から日本人が大好きなモチーフなのだと思います」
『ぼくと初音の夏休み』執筆に至った3つの理由
7月に刊行された掌編小説さんの『ぼくと初音の夏休み』。その内容も、人付き合いが苦手な主人公の男の子が高校1年生の夏休み、変わり者の同級生の女の子と湘南の海で出会い、浜辺のごみ拾いに巻き込まれる、というところから物語が動き始めます。 まさにブルーライト文芸の王道を行くようなボーイ・ミーツ・ガール作品ですが、掌編小説さんが執筆に至った理由は、大きく3つあったそうです。 「私自身、ブルーライト文芸をいくつも読んできました。すばらしい作品ばかりでしたが、同時に、『困難を抱えた主人公やヒロインが、健気にそれを乗り越えようとする姿を描くことにより、同情や感動を生み出し、読者に消費させてしまっている側面もあるのではないか』という気持ちを抱いたことがあったのです」
「少年少女が健気に頑張る姿」を消費する行為への違和感
障がい者が頑張る姿を、健常者がコンテンツとして消費し、感動する。そんな行為に対して、2012年、身体障がいがあるオーストラリア人のコメディアン、ステラ・ヤングが、批判と共に投げかけた言葉が「感動ポルノ」。 病気や障がい、複雑な家庭の事情を抱えながらも頑張る少年少女を描いた物語の一部が、感動ポルノと重なるようにも感じられてしまったそうです。 「私には比較的重いハンデを抱えた身内がいるので、必要以上にそういうことを感じてしまったのだと思います。 ただ、日本でもチャリティー番組で病気や障がいのある方が切磋琢磨する姿を、視聴者が安全圏から眺め、寄付をしていい気持ちになるのは、果たして正しいことなのか、と議論になったことがありました。 一部の作品に対し、自分が感じてしまった引っ掛かりを、なるべく解消しつつ、同じような枠組みの中で物語を成立させられないか、というのが執筆を決めた理由のひとつでした」