飛び降り自殺の巻き添えで亡くなった女子大生 遺族は損害賠償を請求できるか
賠償額は1億円
飛び降り自殺の巻き添えで亡くなるなんて、遺族にすれば到底納得はいかないはずである。自殺者の親に損害賠償請求することは可能なのだろうか。 「民法の規定では、自殺した高校生が、人が集まる場所で飛び降りたら他人に被害を与える可能性のあることを理解していれば、賠償責任を負うことになっています」 と解説するのは、弁護士の若狭勝氏。 「亡くなった女子大生は19歳ですが、就職していないので賠償額は1億円くらいと思われます。高校生の親が、息子の債務を相続すれば、親に賠償請求することができます。ただし、事件から3カ月以内に親が相続放棄すれば、法的に賠償請求ができなくなります」 飛び降り自殺の巻き添えで亡くなって賠償請求できない可能性があるとは、あまりにも理不尽ではないか。ならば、親の監督責任は追及できないのか。
心神喪失状態なら親に監督責任
「高校生の知能が低く、飛び降りで賠償責任が発生すると理解できないような場合には、本人には賠償責任はなく、代わりに親の監督責任が問われます。親への賠償請求が可能になるわけです」 自殺した高校生は、大阪府立高校に通っていた。とても知能に問題があったとは思えない。 「あとは、高校生の精神状態ですね。精神的に問題があって、善悪の判断がつかないなど、心神喪失状態であったなら……。あるいは、精神を患っていて、精神病院に通っていれば、親の監督責任を問うことも可能です」 その場合、高校生の精神状態をどうやって把握するのか。 「巻き添えで亡くなった方の遺族が、高校生の精神状態を把握するのは容易なことではありません。警察は、高校生を刑事事件として捜査しますが、容疑者が亡くなっているので、捜査も簡易なものになりますね。高校生の親からは事情を聴くでしょうが、結局、容疑者死亡のまま重過失致死容疑で書類送検して終わりでしょう」 お手上げなのだろうか。 「3カ月はあっという間に過ぎますから、それまで高校生の親には接触せず、3カ月後に民事裁判の手続きを行う、という方法もあります。もっとも、高校生の親族がネットなどで3カ月以内に相続放棄すれば……という情報を知っていれば、なすすべもありませんが……」 賠償額はかなり低くなるが、ビルのオーナーや管理会社を訴えることも可能という。 「高校生が屋上へ出る際、ドアの鍵を覆っていたプラスチック製カバーを壊しています。ドアが開いた時、警備室のブザーが鳴ったわけですから、自殺志願者が屋上に出ることを想定しています。結局、ブザーが鳴っても自殺を防げなかったわけですから、簡単に壊せるプラスチック製カバーではなく、頑丈な鍵をつけるべきだったとして、管理義務違反を追及することは可能です」 週刊新潮WEB取材班 2020年10月30日 掲載
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