時計史を彩る2つの伝説、独創の設計とカラフルな意匠。【コルム】
コルムはいつも、他と似た腕時計をつくろうとしない。その気概なしには1955年創業のブランドが、さらなる老舗揃いのスイス時計業界で頭角を現すことは、きっとできなかっただろう。独創性から始まるクリエイションは不思議な魅力の結晶。いくつもの伝説的な腕時計が誕生し、現在に至っている。 【2つのモデルのスペックを見る】「アドミラル レジェンド 38」と「ゴールデンブリッジ レクタングル」
永遠のロングセラーであるコレクションの最新作が「ゴールデンブリッジレクタングル」である。ガラスの中で一文字に屹立するブリッジが、実はムーブメントであり文字盤であり、つまりは腕時計そのものである。ゼンマイから始まって調速機構に至る輪列を一直線に並べる、腕時計史上の大発明であり不朽の傑作。実は最初につくったのは独立時計師アカデミーAHCIの発起人、天才時計師ヴィンセント・カラブレーゼだ。まだ世に出る前の発明をコルムの創業社長が買い取って世界的ベストセラーに育てると同時に、天才は初めて自分のアトリエをもつことができた。 一方、デザインで20世紀を代表する腕時計「アドミラル」コレクションには、38mmの新作「アドミラルレジェンド 38」がラインアップされている。12角形の特徴的なフォルムに、文字盤上のアワーマーカーはすべてヨットレースで使われる国際信号旗だ。それもデザイン上の意匠ではなく、正しく1から12を示している。クルーザーやディンギーのコックピットに張られているフラッグ一覧表が、腕時計に再現された。アドミラルの名は2003年まで行われていた、伝説的な外洋ヨットレースに由来するものだ。レースの再開はないだろうが、そのウィットを真っ先にヨット乗りが支持した大ヒット作は、時を経て不朽の“レジェンド”となり、いまも人気だ。 伝説は自ずから、静かに誇る。価値を見極めるのは、間違いなく腕時計通なのである。
文:並木浩一 写真:宇田川 淳