第163回芥川賞受賞会見(全文)遠野遥さん「受賞がなんかのゴールではない」
父親の不在も書かれているが
共同通信:共同通信の瀬木と申します。このたびはおめでとうございます。作品に関して伺いたいと思います。選考委員の選評でも、人物の描き方、人物造形が非常に新鮮で、えたいが知れない、アンバランスである、そこが面白いという評価もあったようですけれども、作品を拝読しますと、あまりそんなに分量は割かれてないですが、例えば父親の不在っていうようなことも書かれていて、それが実はわりと作品の下支えになってる部分なのかもしれないな、という読み方をしたんですけれども、その部分、ご自身としてどうお考えになって、もし何かあるとすれば、なぜそれがご自身にとってテーマになるかっていうことを伺ってもよろしいでしょうか。 遠野:確かに父の話を書いたと思うんですけど、あれですね、本当にあまり文章を割いてなくて、どういう人かっていうのも書いてなくて。だけれども主人公に影響を及ぼしてるのが分かるように書いたつもりです。お答えになってますでしょうか。 共同通信:それはご自身にとって、どういうふうにそれが、どういう思いがある、ちょっとプライベートなことに踏み込んでしまうかもしれませんけれども。 遠野:どういうふうに。実際に、私自身が、作者がああいうことを言われたっていうことではなくて、なんでしょうね、だから、あの部分は創作ですよね、小説なんで。 共同通信:以上? 遠野:何かありますかね。 共同通信:何か、すいません、ご自身にとって、それは作者として、それが重要なテーマになるような部分っていうのが何かおありだったりするのか、答えられる範囲で構いませんけれども。 遠野:いや、特に重要なテーマがそこにあるかっていうと、自分ではそういう認識はないですね。今回の作品では、たまたまそういうエピソードが出てきたというだけで、今後もそういうのを扱っていこうだとか、自分のテーマがこうだとか、そういうことではないと思います。