「資本主義」は社会の発展に不可欠な必要悪? 仮面ライダーと対峙するショッカー戦闘員が妙に貧弱に見えるワケ(前編)
人気作家のさくら剛さんが、世の中の「主義・思想」をユーモアたっぷりに、そして皮肉たっぷりにご紹介する哲学・超入門エッセイ。価値観が多様化する現代、人生というダンジョンに地図もなく放り出された私たちは、これからどう生きるべきか? *本記事はさくら剛氏の著書『君たちはどの主義で生きるか ~バカバカしい例え話でめぐる世の中の主義・思想』(ウェッジ)の一部を抜粋・修正したものです。 本来、社会主義は「資本主義の悪の部分を排除する」ことを主目的に考案された仕組みでした。 マルクスや、あるいは19世紀の労働者たちの頭の中では、資本家というのは顔面にペイントして竹刀で労働者をビシバシしごくような、さながら悪役レスラーのような恐ろしい存在だったのです。 その極悪な資本家軍団を追放し、平和な環境を構築するため、いくつかの国では労働者が革命を起こし、社会主義経済が導入されることになりました。 ところが……、実際に社会主義を運用してみると、実は資本主義こそが、社会主義の欠点を先回りして補っているシステムだったということがわかったのです。 「極悪人は排除だ!」ということで資本主義(および資本家)を追放してみたものの、皮肉にも新しく採用した社会主義が軒並みうまくいかないという結末により、「実は極悪な資本主義や資本家こそが、社会を大きく発展させる貢献者だったのだ」ということに世界は気付くことになったのです。 まさしく、かつて一世を風靡した女子プロレス界の極悪同盟と同じではないですか。 極悪同盟は言わば「女子プロレス界の反社」とも呼べる軍団であり、構成員のダンプ松本さんやブル中野さんは、ライバルであるクラッシュギャルズの髪の毛をバリカンで刈ったり鎖で首を絞めたりフォークやハサミで刺して血まみれにしたりと、リング上で悪の限りを尽くしていました。 子供の頃の私は、テレビ中継でその残虐行為を見るたび「なんでこんな悪い奴らを追い出さないんだ! こんな悪党はとっとと警察に突き出せ‼」と憤っていました。同じ感想を持った人はたくさんいたようで、当時ダンプさんは道を歩いているだけで石を投げられたり、車を傷つけられたり家の窓を割られたりと、散々な目に遭ったそうです。 しかし、今ではよくわかります。あの頃、女子プロレスに日本中が熱狂したのは、あの悪の(悪を演じていた)レスラーたちがいたからなんですね。正義のクラッシュギャルズの人気が断トツでしたが、クラッシュの人気は極悪同盟との抗争なくしてはあり得ず、極悪同盟がいなければクラッシュの人気どころか女子プロレス界の隆盛もなかったはずです。プロレス界全体が盛り上がり莫大な経済効果が生まれたのは、明らかに極悪同盟の功績なんです。
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