【地域に生きる】「じいちゃんかっこいい」魚のとれない海で生きる少年、祖父の不安
「魚がとれりゃ、わしもこんなことせん。魚とるほうが楽なんじゃけ。こんなにして働かにゃ食べられん」 勝繁さんより先にへばる孝太。 しかし息切れをして、「手だけ寒い」とつぶやく孝太が、船をロープで結ぶ姿は上達を見せていた。
「海には金が転がっとる。とれるかどうかは腕次第」
別の日、午前4時過ぎ。勝繁さんは孝太を連れて沖へ出た。 豊島伝統の漁法・一本釣りで狙うのは、島特産の鯛だ。
1本の糸に複数の疑似餌を付けて狙う一本釣りは、高い技術が必要だが、魚に傷が付きにくい。慣れないと海底に針が引っかかってしまうため、何度も失敗を重ねながら、孝太は糸のさばき方を体で覚えていく。 「昔は魚群探知機もなにもないから、潮の流れで考えて釣ったけど、今はこれで魚の場所が見えるんだ」 魚群探知機で鯛が海底近くにいることはわかっているが、なかなか釣れない。 勝繁さんの指導を受けながら糸を引き上げるが、魚が針から外れてしまう。
「餌を食いに来たのが分かってない。それが分かるようになるまでは時間がかかる」と一本釣りの難しさを伝えるが、孝太さんは「10回くらい聞いた」と言い返す。 勝繁さんは「10回聞いても千回聞いても分からんのよ。何十年掛かるのよ」と声を荒らげる。 体で覚えることを言葉で教えることは難しい。 しかし、魚が釣れるのは朝のわずかな時間。 生業としての漁に時間の無駄は許されないため、孝太に変わって勝繁さんが糸を引き始めた。 わずか数分で鯛が餌をつつく微妙な感覚を察知し、一気に釣り上げる。
「何の違い?」と孝太が驚くが、じいちゃんは「これがプロとアマの違い」と返すだけ。 海で60年生きてきたじいちゃんの確かな技だが、それを伝えるのが難しい。 孝太は真横でその技を見つめ、魚が釣れる感覚を養うため、何度も何度も自分で糸を垂らす。 魚が減っても漁師の意地で釣り上げる。 勝繁さんは言う。 「海には金が転がっとる。とれるかどうかは腕次第」