「13年間の押入れ生活」「モラハラとDV」、過酷な半生を生き抜き幸せをつかんだ猫たち
猫好きな人に飼われても、猫が暮らす場所がいつも安心できるとは限らない。愛をもって飼育したはずなのに、猫にとって過酷な状況になってしまうこともある。NPO法人『ねこけん』には、そうして飼い主から引き取られ、新たな幸せに歩み出す猫もおり、その様子がブログに綴られている。代表理事の溝上奈緒子氏に、「13年間押し入れで育てられた猫」、「モラハラ、DVを受けた猫」について聞いた。 【写真】涙目でガリガリ…押し入れ生活13年の“彦爺”、保護直後から幸せな最期まで ■太陽の光を知らず13年、「愛だけ」では命を預かることはできない 愛嬌のある茶虎の老猫・彦摩呂、通称“彦爺”は、なんと13年間も押入れで暮らしていた猫。もともと高齢夫婦に飼われていたが、猫嫌いの夫に見つからないよう、彦爺は押入れの中で育てられていた。「奥さんは、保護活動に携わるボランティアの方。旦那さんが猫嫌いでも、捨てられていた子猫をどうしても見捨てることができなかったんでしょうね」と、溝上氏は状況を慮る。決して虐待ではなく、愛情があったゆえのことだとブログにも綴られている。そうして拾われて13年、彦爺は光を知らず、一歩も外に出ることなく、真っ暗な押入れの中で育てられた。しかし、ついに夫に隠し通せなくなり、『ねこけん』に相談。こうして彦爺は、初めて日の光を浴びることになった。 とはいえ、押入れの外での生活に慣れるにはかなりの時間が必要だった。「太陽の光に弱くて、常に目に涙が溜まっている状態が3~4年続いて。とてもかわいそうでした」と溝上氏。保護部屋で生活していたものの、最初の数ヵ月はずっとケージの中におり、触ることも爪を切ることもできなかったという。だが、ボランティアメンバーの献身的な努力により、彦爺はやがて、部屋の中を自由に歩き回り、好きな場所で寝て、好きなご飯を食べて、好きなときに好きなだけ水が飲めるようになった。次第に自らメンバーに近づくようになり、すっかり保護部屋の人気者となっていった。 そんな彦爺を思い、「愛情があればいい、というわけではない」と語る溝上氏。「ご飯だけあげていればいいのではなく、やっぱり猫ちゃんを健やかに育てられる環境がとても大切なんです」と、猫を飼うすべての人たちに呼びかける。 『ねこけん』に来てから、たっぷりの愛情と何不自由ない環境の中で、のんびりと猫らしく過ごすことができた彦爺。押入れの中で13年暮らし、『ねこけん』に来て8年。彦爺が静かに旅立ったのは、2020年の7月のこと。『ねこけん』の保護猫のうちでも最長老、21歳になっていた。