大手ゼネコン、納期と採算で「選別受注」 デベロッパーとの力関係が逆転
首都圏各地で再開発プロジェクトが延期・中止などに追い込まれている。 根本原因は、需要に建設業者の供給能力が追いついていないことだ。大成建設の中野雄一理事・管理本部経理部長は「当社の施工能力を考えると建築の今期の繁忙度はピークを迎えている」と明かす。野村証券の濱川友吾アナリストは「大手ゼネコンでは再開発案件などの大型案件を手持ちに抱えており、24年4月以降の働き方改革への対応もあって施工キャパシティーが逼迫している」と指摘する。 【関連画像】●大手ゼネコン4社の建築事業の完成工事利益率 注:2025年3月期は、24年4~9月期の数値 出所:各社資料を基に編集部作成 工事の建設コストが増えた場合、請負者である建設会社が上昇分の割合の多くを負担する。これが日本の一般的な商慣行だった。近年は工事材料の価格が高騰した場合に請負代金の変更を請求できることを定めた「スライド条項」を入れる契約が増えているが、それでも受注側のリスクは拭えない。 ●受発注者の力関係に変化 こうした状況の中、建材価格や人件費の高騰を背景に、受注者と発注者の関係に変化が起き始めた。これまでは発注者が優位だったが、今や受注者が資金や工期の心配が少ない案件を「選別受注」するのが当然になってきた。 大手不動産会社の役員は「デベロッパーとゼネコンとの力関係が逆転しつつある。関係性があるから受けてもらえるという状況ではない」と危機感を募らせる。 選別受注の傾向は、大型案件を多く抱える大手ゼネコンに顕著だ。例えば工期が短く単価の高いデータセンターや、比較的価格転嫁をしやすい工場などの案件を優先的に受注する戦略を取る。 鹿島は原発やデータセンターなどの大型工事を受注した。大林組も製薬や自動車関連などの工場案件の受注を増やした。 清水建設や大成建設は受注前のリスク精査や交渉を強化する。「工期、社内のキャパシティー、サプライチェーンの確保などを綿密に確認する」(清水建設営業総本部営業企画室企画部・大谷昌典部長) こうした取り組みが功を奏し、コスト高に苦しんできた各社の利益率は足元で改善傾向だ。 24年4~9月期の大成建設、大林組、清水建設の建築事業完成工事利益率は前年同期比で改善した。さらに鹿島、大成建設、清水建設の3社は25年3月期の通期純利益見通しを従来予想から上方修正した。