「時間とは何か?」TENETが問いかける深遠な謎。時間逆行が不自然に見える理由を物理学者に聞いてみた
5. 宇宙が誕生した「138億年前」の世界には何がある?
ところで、仮にTENETの世界のように時間が逆転できたとして、私たちはどこまで時間をさかのぼることができるのだろうか。 この宇宙は、約138億年前に誕生したと考えられている。では、138億年前よりも前には、いったい何が存在するのだろうか? 「普通の人は、時間は常に流れているものであると感じているかもしれませんが、ずっと過去にさかのぼっていったとき、宇宙が誕生する瞬間よりも『前』には、時間は存在しないと考えられています。 時間も空間も物質も、宇宙が誕生した際に生まれたんです。そのため、宇宙の誕生時は、時間なのか、物質なのか、空間なのか、区別ができない世界があったといえます」(松浦教授) TENETには、エンターテイメントとして成立させるために、物理学的に見るとおかしな点も当然存在する。 しかしそれ以上に、作中の描写の端々から、時間にまつわる深遠な問いかけをいくつも提示してくれる。いわば「ネタの宝庫」だ。 TENETのヒットは、間違いない多くの人を物理学の「入口」へと誘った。 私たちがそこで感じた不自然さ、そして、それに対して感じた好奇心は、まさに物理学の深淵の一端なのではないだろうか。 取材の最後に、「結局、時間とは一体なんなのでしょうか」と松浦教授に尋ねると、こんな答えが返ってきた。 「物理的に、時間はあくまでもパラメーターの1つにしか過ぎません。それが順方向に進もうが、逆方向に進もうが、気にしません」 ( 文・三ツ村崇志 )
三ツ村 崇志