「紫金山・アトラス彗星」を撮りたい! 2回も飛行機を飛ばしたのに… 1年ごしの撮影計画の結果は
高度1万mに到達、と思いきや
ところが、もうすぐ撮影ポイントというところで、パイロットと整備士がなにやら慌ただしくチェックや確認を始めました。なんと、計器の一部が故障して、うまく動いていないようなのです。 しばらくして、機長から「このままだと、いざというときにオートパイロットが効きません。安全のため、すぐに帰投することにします」とアナウンスが流れました。 なんてこった。 とにかく彗星を写せないか、シャッターを切りましたが、機体はすぐに雲の中に入ってしまいました。 でもまあ、安全は第一なので仕方がありません。 着陸して朝6時くらいに解散。ふて寝をして、エバラさんから電話があったのは翌日の夕方でした。 「計器の在庫があって、もう直ったみたい。明日飛べる?」「明日って、6時間後のこと?」「いや、明日の夜。1日と6時間後」「いいよー」「じゃ、調整してみるわ」 ありがたいことに、渡部先生もふたたび乗って頂けることになって、改めて30日未明の飛行が設定されました。 急な日程調整だったため、事前申請の関係で今回は8000mまでしか上がれませんが、彗星を撮るには十分なはずです。 地上付近は相変わらず悪天候でしたが、雲の上に出ると機体も安定し、東の空に月齢27の細い月が浮かんでいるのが見えました。うまく撮れるか。緊張しておなかが痛くなりそうです。 もうすぐ撮影開始というところで、月が雲におおわれ始めました。どうやら、高層の雲が漂っているみたいです。いやな予感がします。 機長が「この先に高い雲がありそうです。引き返して、さっきの場所から撮りますか?」と聞いてきました。引き返すと5分はロスします。一方、引き返さずにこのまま突っ込むと、雲に入って撮れないかもしれません。 東の空はすでに明るくなっていて、悩んでいる時間はありません。 「……引き返しましょう!」 結論から言うと、この判断はいまいちでした。その5分間で空はさらに明るくなり、彗星を見つけるのは極めて難しくなってしまったからです。 私は双眼鏡で東の空を探しながら、エバラさんに、とにかくシャッターを切りまくるように要請しました。 渡部先生も、やはり双眼鏡で探していますが、東の空には高層の雲がまだ残っていて、なかなか見つかりません。 「これはなかなか厳しいなあ」「こんなに難しいもんですかねえ?」 事前に、南半球や、ハワイ・マウナケア山頂に朝日新聞宇宙部が設置している星空カメラでは長い尾が観察できていたのです。余裕だと思っていましたが、目の前には夜明けの空が広がっているだけに見えます。 【YouTubeチャンネル「朝日新聞宇宙部」はこちら】https://www.youtube.com/watch?v=rETzjF1SrYU その時、私の双眼鏡の視界に、ぼうっとした光の点が入ってきました。位置は予想通りの場所ですが、かんじんの尾は、あるような、ないような……。紫金山・アトラス彗星なのか、確信が持てません。 「これかなあ。あの、ひょろっと延びている雲のすぐ上」とエバラさんや渡部先生に伝えましたが、2人はそれでも見つけられないようです。