『虎に翼』“婚姻制度”に鋭く切り込む週明けに 寅子が同性婚&夫婦別姓に感じた「はて?」
航一(岡田将生)からプロポーズを受けた寅子(伊藤沙莉)。その答えが出せずにいる中、轟(戸塚純貴)から交際相手の遠藤時雄(和田正人)を紹介される。『虎に翼』(NHK総合)第101話では、婚姻制度にまつわる「はて?」が描かれた。 【写真】星家でピリピリした雰囲気の航一(岡田将生) 轟が遠藤の友人の弁護を担当したことがきっかけで知り合ったという2人。寄り添い合っていたところを目撃されたとはいえ、いくらでも誤魔化せるはずなのに、轟は「佐田には時雄さんとの関係をうそで取り繕いたくなかった」と打ち明けてくれた。それなのに祝福するどころか、何の反応も返せなかった寅子。よね(土居志央梨)が事務所に戻ってきた時、寅子は一瞬ホッとしたような表情を浮かべた。 寅子が事務所を訪れたのは、司法試験に合格したよねのお祝いが目的。花束を渡されても相変わらず、よねの態度はそっけないが、「こいつが私のところに来る時は大抵自分の話を聞いてほしい時だ」「時間がもったいない。早くしろ」と寅子の話に耳を傾けてくれた。そんなよねの懐の深さに甘え、寅子は航一との再婚について相談する。 航一からプロポーズされたことは素直に嬉しくも、寅子は結婚する意味を見出せずにいた。「婚姻状態にある女性は無能力者」とされた戦前の民法に疑問を持ったことがきっかけで法律を学び始めた寅子。そもそもが婚姻制度に懐疑的だった上で、優三(仲野太賀)との結婚には「社会的地位を得る」というある種のメリットがあった。だが、航一とは子供を作る予定もなければ、どちらも経済的に自立しているので、婚姻関係を結んで支え合う必要もない。 寅子が素直な気持ちを吐露する中で、轟が遠藤に気遣うような視線を向ける姿が印象的だった。今、寅子が抱えている悩みには不可解な点は一切ない。ましてや2人で納得して永遠を誓わない愛を選んだのに、「なぜ今さら?」と思うのは当然だ。けれど、寅子の悩みは相手が異性であり、結婚するかしないかの選択を与えられた人間の特権とも言える。轟と遠藤は同性のカップルであるがゆえに、たとえ結婚を望んでいたとしても法的に不可能なのだから。 そしてその法律は今なお、変わらない。同性婚を認めるか否かの議題で挙がるのが、自然生殖の可能性だ。自然生殖の可能性がない以上、国家が法的婚姻制度でもって同性カップルを法的に保護する必要はないと主張する人もいるが、寅子と航一がそうであるように、互いの合意をもって子供は作らないと決めている異性同士のカップルも存在する。婚姻の目的は、航一が寅子にいくつか提示したように、生殖に限らず多種多様だ。中でも、民法763条で「夫婦は、その協議で、離婚をすることができる」と定められているように、婚姻制度自体が永遠の愛を誓うわけではなく、むしろ永遠を誓わない愛であるとする航一の主張は新たな視点だった。 婚姻について選べることがある一方で、選べないこともある。苗字の問題だ。よねのアドバイス通り、航一と話し合っていくらかスッキリした寅子だったが、花江(森田望智)に「結婚となれば、星家に住んで、星家の人になる」と言われたことで再び「はて?」が頭を支配する。花江の言葉には、寅子が航一の籍に入り、星寅子になることが前提にあった。だが、民法第750条には「夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫又は妻の氏を称する」と定められており、必ずしも妻が夫の苗字になる必要はない。玲美(菊池和澄)のように早く猪爪を名乗りたいという人もいれば、夫の苗字に変わることに対して抵抗を持つ人も当然いる。 寅子がもしそうなのであれば、選択肢があるのだから、婿に入ってほしいと航一に頼めばいいと思うかもしれない。しかし、そうではなく、寅子は夫婦のどちらか一方が苗字を変えなければならないこと自体に疑問を持つのだった。 同性婚も夫婦別姓も未だ議論の最中にある。おそらく現代人だけではなく、寅子が生きる時代にも「なぜ同性カップルは結婚できないのか」「どうして結婚したら夫婦で苗字を統一しなければならないのか」といった疑問を持っていた人たちは存在していただろう。本作はそういう人たちを透明化せず、真正面から向き合っていく。
苫とり子